研究課題/領域番号 |
22K03548
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
小西 隆士 京都大学, 人間・環境学研究科, 助教 (90378878)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 高分子 / 結晶化 / 凝集体 / シンジオタクチックポリプロピレン |
研究実績の概要 |
申請者はこれまでの研究で結晶性高分子の一つであるポリトリメチレンテレフタレート(PTT)の深い過冷却度での結晶化過程において、数nmの微結晶による凝集体形成過程の存在を明らかにしてきた。しかし、この機構は従来の結晶化モデルでは説明がつかない。また、多くのソフトマテリアルにおいても、ナノ構造による凝集体の形成メカニズムはいまだ共通の問題として存在している。そこで、これらの物質に対してナノ構造の凝集体の形成・破壊過程を、X線散乱法を主とした測定・解析を行うことで、「ソフトマテリアルに共通するナノ構造の凝集体形成メカニズム」を解明することを目指している。 本年度は結晶性高分子の一つであるシンジオタクチックポリプロピレン(sPP)のガラス転移温度近傍での等温結晶化過程について小角X線散乱(SAXS)測定、広角X線回折(WAXD)測定、光学顕微鏡観察を行った。その結果、結晶化初期に密度ゆらぎが発現することをSAXSにより明らかにし、これらのゆらぎは微結晶の凝集体形成によるものであることを明らかにした。また、SAXS曲線の時間変化からその成長キネティクスは均一核生成-成長型であることを明らかにし、より高温で起こる球晶の成長速度依存性と同様のパラメータに一致することを明らかにした。これらの結果は、以前、申請者が明らかにしたPTTの微結晶凝集体形成機構と同様の結果となっており、高分子におけるガラス転移温度付近での微結晶形成を伴う結晶化機構は高分子全般に適用できる可能性がある。本成果は結晶化メカニズムを理解する上で非常に重要な結果となりうる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
結晶性高分子の一つであるシンジオタクチックポリプロピレン(sPP)において、ガラス転移温度付近での微結晶形成を伴う結晶化機構の存在を明らかにし、そのキネティクスを明らかにした。これらの結果については学会発表をおこない、学術論文にまとめて投稿し、受理された。さらに、このような微結晶凝集体が形成するsPPとポリトリメチレンテレフタレート(PTT)についてガラス転移温度付近の温度での延伸下での等温結晶化過程の小角X線散乱(SAXS)測定を行っており、現在解析中である。また、物理ゲルの形成過程のSAXS測定を本年度より行っており(研究計画では次年度予定)、現在、結果を解析している。 これらの進捗状況は申請書で予定していた内容とおおむね一致している。
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今後の研究の推進方策 |
現在、微結晶凝集体が形成するsPPとポリトリメチレンテレフタレート(PTT)についてガラス転移温度付近の温度での延伸下での等温結晶化過程の小角X線散乱(SAXS)測定を行っている。この結果をまとめることで、静置場でおこる微結晶凝集体形成メカニズムの解明につながると考えている。さらには球晶(ラメラ晶)が形成する条件での延伸結晶化と比較することで、結晶モルフォロジーによる材料特性の違いを明らかにすることを試みる。 また現在、物理ゲルの一つであるアガロースゲルについての形成過程をSAXSにより測定・解析している。今後は、アイソタクチックポリプロピレン(iPP)やポリビニルアルコール(PVA)などの他の物理ゲルの形成過程についても測定・解析していく。 さらに、タンパク質水溶液の調整に取り掛かる。もし、調整が速くできれば温度変化によりその凝集体の形成過程X線散乱法を用いて測定し、定量的な解析を行う。実験に用いるたんぱく質は現在β-lactoglobulinを予定している。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度以降で行う予定の物理ゲルの実験を想定以上に調整がうまくいったため、初年度より開始し、それらの小角X線散乱実験等を行った。そのため、初年度より開始する予定であった延伸下での高分子結晶化過程の顕微鏡観察を次年度以降に行う予定としたために、顕微鏡用カメラ、および、カメラ用パソコンの購入も次年度となった。よって、次年度では顕微鏡用カメラとカメラ用パソコンの購入を行い、ソフトマテリアルの顕微鏡観察を進めると共に、その他は当初の研究計画に沿った助成金の使用を進める。
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