研究課題/領域番号 |
22K03549
|
研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
土田 秀次 京都大学, 工学研究科, 准教授 (50304150)
|
研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
|
キーワード | DNA損傷 / 水和 / 炭素イオンビーム / ヌクレオチド |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、生体分子の放射線損傷過程を原子レベルで理解するため、水中における生体分子と、水や生体分子に吸収された放射線のエネルギーで生じた二次電子との相互作用について、特に、重粒子線で発生した二次電子による生体分子損傷を解明することである。 本年度は、イオンビームによる生体分子損傷における水和の影響について、実験とシミュレーション計算によって行った。用いた生体分子は、核酸の構成単位であるヌクレオチドのうち、水の溶解度が高いウリジル酸を選択した。この水溶液標的に加速器からのMeV領域の炭素イオンビームを照射した。このエネルギー領域は、重粒子線がん治療の特徴である「Braggピーク領域」に相当する。比較のため、水和していない生体分子の標的として、先の水溶液をシリコン基板上に滴下・乾燥させた標的を用いた。炭素イオンビーム照射によって、標的から放出する生体分子の分解イオン(正または負に帯電したイオン)を、飛行時間型二次イオン質量分析計で測定した。 得られた主な結果として、正に帯電した分解イオンは、入射イオンによる電離と水から発生した50-200 eVの二次電子による電離の2つの直接作用であること、この直接作用で最も支配的な損傷はリン酸基とリボース部位の中で結合が切断する鎖切断であること、一方、負に帯電した分解イオンは水から発生したOHラジカルによる間接作用で生じ、支配的な損傷はリン酸・リボース間のO-グリコシド結合は切断する鎖切断であること、OHラジカルは水からの二次電子によって生成しその際の二次電子のエネルギーは50-200 eVであること、などが分かった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、3年間の計画で3つのサブテーマを実施する。本年度は、そのうちの1つのサブテーマをほぼ計画通りに進めることができた。今年度の到達目標は、イオンビームにより生体分子損傷が水和の有無でどのように影響を受けるかを明らかにすることであり、実験と解析の実施により、その目標をほぼ達成することができた。得られた成果は、学術論文にまとめる予定である。 また、次年度に計画している、水中の生体分子損傷における二次電子エネルギーの影響に関する研究に進むために、日本原子力研究開発機構が開発した「放射線輸送計算コードPHITS」を用いて、本研究で必要となる炭素イオンビームによる水中での二次電子発生に関する計算コードを使える準備を完了している。これらの進捗状況から、「おおむね順調に進展している」と評価した。
|
今後の研究の推進方策 |
本研究の目的は、イオンビームによる水中における生体分子損傷に関与する二次電子の作用機構の解明であるが、ヌクレオチドのような複雑な構造(リン酸、糖、塩基)を持つ生体分子に対して、損傷機構を詳細に解明する必要がある。そのため、用いる生体分子によりシンプルな構造を持つものを加えて、研究を拡張させる計画である。具体的には、ヌクレオチド構造の部分構造の分子である、塩基のみ、塩基+糖から成る分子、塩基+糖+リン酸から成る分子を用いる。これらの研究を進めることで、本研究の最終目的に到達するよう努力する。また、本研究を通じて、放射線の生体影響で関心の高い内容として、生体の大部分を占める液体の水の放射線分解に関する研究についても実施する予定である。 これらの研究成果を国内外に発信するために、国際会議での口頭発表および学術論文による発表を積極的に行う予定である。
|
次年度使用額が生じた理由 |
本年度は、新型コロナウイルス感染症の影響により、国際会議等の成果発表に計上していた旅費の執行を予定通り行うことができなかった。しかしながら、次年度はその影響が無くなる見通しになるため、主に国際会議による成果発表の費用として使用する計画である。
|