研究課題/領域番号 |
22K03556
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研究機関 | 高崎健康福祉大学 |
研究代表者 |
外山 吉治 高崎健康福祉大学, 農学部, 教授 (50240693)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 水晶振動子マイクロバランス / フィブリンソフトクロット / フィブリンハードクロット / フィブリノゲン / プラスミン / 線溶 / 静止場 / 流動場 |
研究実績の概要 |
本年度の研究実績は次の1)および2)である。 1)流動場における測定装置の作製:9 MHz 水晶振動子マクロバランスシステム(SEIKO EG&G社,QCA922)に自作の温度コントローラを備えたフロー型セル(QA-CL7)を取り付けた.これにより,セル内の温度は0.1℃の精度で制御可能となった.フロー型セルにはプラスミン等を含む線溶剤を環流するためにシリコンラバーチューブを用いてペリスタポンプを接続した.はじめに,フローセル内への流量を決定するため,ペリスタポンプの回転数と流量の関係を測定した.その結果,環流量は0.08~3.5 mL/minの間で調節可能なことが分かった.次に,流量の変化に伴う周波数への影響を調べた.流量を変えた直後には周波数のバラツキが見られたが,すぐに±20Hzの範囲内で安定した.これらの結果をもとに実験は流量1.8 mL/minで行うこととした. 2)流動場におけるソフトクロット線溶へのプラスミン濃度依存性:プラスミン濃度0.05 U/mLおよび0.10 U/mLにおける流動場での線溶過程を測定した.セル内に0.5 mg/mLのフィブリノゲン水溶液を加えて振動子表面にフィブリノゲン分子を固定化した.次に,トロンビン水溶液を最終濃度0.50 U/mLになるように加えて振動子表面にソフトクロットを形成させた.クロット形成にともない周波数はおおよそ500 Hz減少した.その後,プラスミン溶液を流速1.8 mL/minで還流させて線溶過程を測定した.その結果,0.05 U/mLプラスミン溶液では, 線溶にともなう周波数変化は640 Hzの増加,線溶に要する時間は6 minであった.一方,0.10 U/mLプラスミン溶液では,線溶にともなう周波数変化は730 Hzの増加,線溶に要する時間は4 minとなり,プラスミン溶液の濃度依存的に線溶過程が促進された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究期間内における具体的な目標は次の1)から4)である。 1)静止場におけるソフトおよびハードクロットの線溶過程の測定:ズリ応力の影響を知るために流れのない静止場におけるソフトクロットとハードクロットの線溶過程を測定する。2)線溶過程の解析方法の確立:酵素(トロンビンおよびプラスミン)濃度依存性の基礎データをもとに線溶過程に対する実験式を求め、線溶活性の指標となるパラメーターを決定する。3)流動場における測定装置の作製:現在の測定装置(静止場のみ)を流動場で測定可能な装置へと改良する。4)流動場におけるソフトおよびハードクロットの線溶過程の測定と解析:本研究の目的でもある線溶活性の測定法を確立し、得られたパラメーターよりズリ応力の影響を調べる。 目標の1)および2)については,昨年度その目標を概ね達成している.ただし,昨年度からの課題であった線溶過程に対する実験式については,様々な関数によるフィッティングを試みたが、いずれも系統的な誤差が生じ適当な実験式を見出すことはできなかった。しかし,本年度のプラスミン濃度依存性の結果から,線溶にともなう周波数変化(ΔF)と線溶に要する時間(Δt)の二つのパラメータが線溶活性の指標として利用できることが示唆された.目標3)については,研究実績の概要で述べている通り,これまでの静止場測定装置を流動場での測定可能な装置へと改良できた.以上の結果から,当初の研究計画を概ね達成できていると考える.
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今後の研究の推進方策 |
当初の研究計画に沿って目標4)を中心に実験を行う.具体的には,i)流動場におけるソフトおよびハードクロットの線溶過程の測定と解析:流動場の測定はこれまでソフトクロットのみであったが,実際の血栓は第13因子の作用による共有結合をともなう強固なクロット(ハードクロット)である.従って,これまでのフィブリノゲン水溶液に代わり13因子を含む実際の血漿を用いてソフトクロット同様にプラスミン濃度依存性を調べる.ii)プラスミン添加のタイミング:線溶はクロット形成後の経過時間(エイジング時間)に大きな大きな影響を受けるため,プラスミンを添加する時間を変えて線溶過程を測定する.iii)クロット線溶過程へのズリ応力依存性:血管の太さは数ミクロンから数センチと様々で,それに応じて流量も大きく変化する.従って,血栓が形成された場所によってズリ応力は大きく変化する.チュービングポンプによるプラスミン等の線溶剤の環流速度を変化させて線溶過程を測定する.次年度は最終年度にあたるため,これまでの実験結果を総合的にまとめて本研究課題の最終目標であるクロットの線溶過程の測定と解析法の確立を目指す.
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた理由:i)消耗品の中で高額をしめるセンサーチップの洗浄を工夫して再利用を可能にした.ii)共通機器として設置された超低温フリザーを利用することにより,フィブリノゲン水溶液やプラスミン水溶液等の酵素試料の長期保存が可能となり試薬を節約することができた.iii)再現性を含めた実験結果の解析が遅れており,学会発表を見送ったため旅費の使用がなかった. 次年度の使用計画:i)研究計画の目標4)を進めるための消耗品を購入する.次年度は本研究課題の最終年度に当たるため,ii)研究結果をまとめて学会発表するための旅費に充てる.iii)論文掲載料が高騰しているジャーナルへの投稿費に充てる.
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