研究課題/領域番号 |
22K03559
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研究機関 | 東海大学 |
研究代表者 |
新屋敷 直木 東海大学, 理学部, 教授 (00266363)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | 誘電緩和 / 氷 / 水溶液 / 水和 / 不凍水 / 結晶構造 / 高分子 / タンパク質 |
研究実績の概要 |
(A)温度履歴の影響に関する研究:冷却時の温度履歴が氷の誘電緩和及び結晶構造に与える影響を調べた。球状タンパク質の牛血清アルブミン(BSA)を用い、「急冷」、「-5℃でアニール」、「5 degree/hourで冷却」でそれぞれ冷却したBSA水溶液の氷の緩和を123~273 Kの温度範囲、10mHz~10MHzの周波数域で観測した。この温度履歴の変化によって氷の緩和はほとんど変化しないが、氷の緩和の低周波側の界面分極が大きく変化した。 ポリビニルピロリドン(PVP)水溶液の濃度と冷却速度を変化させX線回折測定を行い、PVP水溶液中の氷の結晶構造を調べた。PVP濃度50wt.%以上の水溶液では氷が形成されない。またPVP濃度40wt.%以下では hexagonal ice が観測された。40~50wt.%の濃度範囲では冷却速度によって結晶構造が変化し、低冷却速度では hexagonal ice が、高冷却速度では cubic ice が観測された。 (B)溶質濃度の低い水溶液のBDS測定:溶質濃度10wt.%のポリイソプロピルアクリルアミド(PNIPAM)マイクロゲルの誘電分光測定を行った。まず、マイクロゲルの体積相転移温度を含む288~323Kの範囲で氷結していない重水を用いた水溶液における水とPNIPAMの分子運動を観測し、軽水と重水における分子運動を比較した。これらの結果を1報の論文および1件の国際会議で発表した。 氷結した10wt.% PNIPAMマイクロゲル水溶液の氷の緩和を観測し、同じ濃度のゲル(ゼラチン)、ランダムコイル高分子(PVP)、球状タンパク質(BSA)水溶液と比較し、高分子の構造の違いが氷の緩和に与える影響を確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(A)氷の誘電緩和に対する温度履歴の影響に関しては球状タンパク質(BSA)水溶液のBDS測定を行った。BSA水溶液の氷の緩和は温度履歴の違いによってほとんど変化が見られなかったため、この結果を詳しく解析する。合成高分子のPVPおよび塩(NaCl)についても氷の誘電緩和に対する温度履歴の影響を調べる予定であるが、様々な物質の水溶液の様々な濃度の氷を観測した後に、冷却速度の影響の存在が大きいと思われる条件で氷の緩和の温度履歴依存性を調べる。 (B)溶質濃度の低い水溶液のBDS測定:共同研究の都合により10wt.% PNIPAMマイクロゲル水溶液の氷の緩和の観測を行った。PNIPAMマイクロゲル水溶液で観測された氷の緩和を同一濃度の様々な水溶液の氷と比較することができた。
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今後の研究の推進方策 |
(A)氷の誘電緩和に対する温度履歴の影響に関しては、氷の誘電緩和を調べる前に、温度履歴が氷結晶構造に与える影響を把握する必要があると考え、まずは水溶液中の氷の結晶構造を調べる。対象とする水溶液はPVP水溶液、ポリビニルメチルエーテル(PVME)水溶液、BSA水溶液、グリセロール水溶液である。 (B)溶質濃度の低い水溶液のBDS測定:溶質濃度10 wt.%以下のPVP水溶液の氷の緩和を観測する。PVP濃度10wt.%以上のPVP水溶液は200 K以上の温度で観測される氷の緩和の緩和時間が小さい。10 wt.%以下の濃度でこの緩和時間の小さいPVP水溶液の氷の緩和が、純水の氷の緩和へと変化していく過程を調べ、PVP水溶液の氷の緩和時間が小さいメカニズムを調べる。 (C)溶質濃度の高い水溶液のBDS測定:溶質濃度40~60wt.%のPVP水溶液およびPVME水溶液の氷の緩和を観測する。この研究によって、cubic iceができる濃度域での誘電緩和の特徴を調べる。この濃度域は氷の緩和が小さいため、不凍水の緩和と氷の緩和の関係を調べる。さらにこの濃度域は界面分極の影響が小さいことが予測されるため、水和した高分子の緩和と界面分極の定量的な分離を試みる。
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次年度使用額が生じた理由 |
2月及び3月に予定していた液体窒素を要する実験の実施が見込みよりも少なかったため。
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