研究課題/領域番号 |
22K03564
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研究機関 | 国立研究開発法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
森下 徹也 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 材料・化学領域, 主任研究員 (10392672)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2027-03-31
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キーワード | カーボンニュートラル / 分子動力学 / 二酸化炭素 / CCUS / 界面 |
研究実績の概要 |
CCUSの柱の一つである"storage"(もしくは"sequestration")では、高温高圧下の超臨界状態のCO2流体を地下に貯留する。しかしながら地下には地下水が含まれることも多く、地下水とCO2流体の界面が地下環境でどのような特性を持つかは、CO2地下貯留の効率化において重要な知見となる。令和4年度はこのような状況を背景に、幅広い温度圧力領域でのCO2流体と水との界面張力を、分子動力学シミュレーションにより評価した。 8, 10, 12MPaの圧力下では、328K-373Kの温度領域において界面張力は温度増加に対して増加する一方、373K以上の温度では温度増加に対して界面張力は減少する傾向が見られた。このような温度変化に対する極大値の出現は、これまでの実験結果と調和的である。一方、14MPa-50MPaでは温度増加に対して、界面張力は単調に減少する傾向が見られた。特に、478K-550Kの高温領域では、界面張力は対象とした全ての圧力下で減少する傾向が明らかになった。このような高温下での界面張力の実験測定はほとんどなされておらず、本計算結果は高温地層水へのCO2貯留に関して重要なデータとなる。 界面張力の温度変化に対する極大値の出現を理解するために、Gibbs-Duhem(GD)式に基づいて界面モルエントロピーに注目した考察を行った。その結果、極大の出現は、CO2流体の密度やエントロピーが、臨界点近傍条件下で大きく変動することに起因することがわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和4年度は本事業の1年目であるにも関わらず、事前の情報収集などの準備が適切であったこともあり、CO2流体/水界面特性の評価を幅広い温度圧力条件下で実施することができた。本結果はエネルギー・化学分野のQ1ジャーナルで論文として発表することができた。こうしたことから、本事業は順調に進展していると判断する。
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今後の研究の推進方策 |
令和5年度も引き続き、CO2流体/水共存系の分子動力学(MD)シミュレーションを実行し、CO2貯留層などに対応する幅広い温度圧力条件下でのCO2/水共存系の基礎物性の評価を推進する。特にCO2と水の相分離挙動に関して、実験データとMD計算の整合性を検証するとともに、水素結合数や水分子の四面体性、配位数などの指標をもとに、相変化に伴う構造変化を原子レベルから明らかにする。可能であれば、主成分解析や多次元尺度構成法などの機械学習を取り入れ、相分離状態と混合状態をデータ科学に基づいて判別するスキームの検証も行う予定である。 更にCO2/水系に加えて、水含有炭酸カルシウムや炭酸水における炭酸イオンの反応過程の検証を開始する。そのために、様々な水含有率の炭酸カルシウム結晶をモデリングし、令和6年度以降に予定しているアモルファス炭酸カルシウムの第一原理MD計算の準備を進めていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
初年度にタワー型並列計算機を導入する予定であったが、コロナによる物流問題やロシアのウクライナ侵攻などによる半導体価格の上昇が予想をはるかに上回り、予定していたスペックの計算機を導入できないことが判明した。そのため物価上昇が令和5年以降には収まることを期待し、計算機用の予算を繰越すこととした。計算機スペックの再検討を実施することで、令和5年度には繰越した予算に基づいて並列計算機を導入する予定である。
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