研究課題/領域番号 |
22K03566
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
赤塚 洋 東京工業大学, 科学技術創成研究院, 准教授 (50231808)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 非平衡プラズマ / エントロピー理論 / 電子エネルギー分布関数 / ボルツマン方程式 / 非平衡統計力学 |
研究実績の概要 |
令和4年度は、系の確率変数が連続変数となる系として、電子エネルギー分布関数に着目し、統計力学的な意味での温度の再検討を行った。具体的には、N2,O2の弱電離放電プラズマを対象として、2項近似を適用したBoltzmann方程式を、各ガス種励起状態のレート方程式と連立させて換算電界E/Nの関数として解き、電子エネルギー分布関数EEDF F(ε)を求め、Gibbsエントロピーを計算し、統計熱力学的温度1/(∂S/∂U)を再検討し、分布関数の傾きや、カイネティック温度(2U)/(3k)との一致・不一致を体系的に検討した。振動励起状態密度と連立させてEEDFを解くコードを自作しており、これを利用した。 その結果、酸素・窒素の両方のプラズマについて、エントロピーSと電子エネルギーの対数lnUとの間の良好な線形関係が確認されたが、酸素プラズマでは d(S/k)/d(lnU)= 1.55-1.61,窒素プラズマでは1.53-1.58となって、Alvarezらの予測値1.50とほぼ一致したが、正確には一致しないことが判明した。また、エントロピーと平均エネルギーの関係から計算される統計的熱力学的電子温度も、電子の運動温度とほぼ一致するが、厳密には一致しなかった。過去の研究では、酸素分子の酸素原子への解離も、非弾性および超弾性衝突による窒素分子の振動レベルとのエネルギー交換も考慮されていなかった。つまり、ボルツマン方程式を解いて EEDF を求める場合、EEDF の影響をボルツマン方程式の衝突項に適切に組み込み、電子エネルギーの変化を調べる必要がある。線形であった2項近似ボルツマン方程式が非線形になる。その結果、対応するエントロピーは、本研究で扱ったギブスエントロピーとは限らないことも確認された。他のタイプの非平衡エントロピーについても議論する必要があり、今後さらに検討する必要があると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
エントロピーSと電子エネルギーの対数lnUとの間の良好な線形関係が確認されたが、酸素プラズマでは d(S/k)/d(lnU)= 1.55-1.61,窒素プラズマでは1.53-1.58となって、Alvarez らの予測値1.50とほぼ一致したが、正確には一致しないことが見出された。予定していた初年度計画である酸素プラズマ・窒素プラズマでの電子エネルギー分布関数について、適切な計算結果を得ることができた上に、インパクトファクターが2を超える学術誌であるEntropy誌に査読付論文を掲載することができた。これは非常に大きな進展である。すなわち、常識的には、d(S/k)/d(lnU)=1.5と正確に一致すべきところであるが、非平衡プラズマにおいてはこの予想は満たされず、若干ではあるが大きな値となることが判明し、物理学的にインパクトのある成果を上げることができたと考えられる。ちなみに、当該論文は、掲載直後から2ヶ月半で約700回ものダウンロードアクセスを得るに至っており、当初の計画以上に進展していると総括できる。
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今後の研究の推進方策 |
系の確率変数が離散変数(離散的エネルギー状態)になる系として、プラズマ中の各種原子の励起状態密度分布に着目し、励起状態分布から定まる「励起温度」に着目し、各種プラズマ状態~電離進行プラズマ条件、再結合プラズマ条件~を題材に統計熱力学的温度を検討する。離散系の場合は、H, He, Arの各プラズマに対して、自作のCRモデルを用い、電子温度・密度、基底状態数密度を入力することにより第i励起状態の数密度Niを求める。全原子数を一定値として、第i状態の存在確率piを求めれば、連続系と同様に各種エントロピーから統計熱力学的温度1/(∂S/∂U)を検討することができ、上記連続系と同様に非平衡状態の温度の検討を行う。すなわち、Boltzmannプロットの与える傾きあるいは励起温度に対して、RenyiエントロピーやTsallisエントロピーを用いた場合の温度との対応関係を精査し、各種のエントロピーを用いて得られた統計力学的温度の物理的な意味を考察する。計算結果が実験的に適切であるかどうかを、適宜マイクロ波放電装置によるプラズマ生成とEEDF についてはプローブ計測により、また励起状態密度については分光計測実験で確認する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
いまだコロナ禍の影響があって、講演を予定していた学会(国内で開催される国際学会)がキャンセルされてしまい、国内旅費及び参加登録料を使用することがなくなってしまったためである。次年度に、学会発表の機会を増やすことで対応したいと考えている。
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