研究課題/領域番号 |
22K03571
|
研究機関 | 公益財団法人高輝度光科学研究センター |
研究代表者 |
籔内 俊毅 公益財団法人高輝度光科学研究センター, XFEL利用研究推進室, 主席研究員 (20397772)
|
研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
|
キーワード | 高エネルギー密度科学 / 高強度レーザー / X線自由電子レーザー / プラズマ科学 |
研究実績の概要 |
本研究では、高強度レーザーの照射により加熱、電離された固体物質の電離度情報を、高い時間・空間分解能をもって診断するための新しい手法を開発する。非常に高い強度の短パルスレーザーが物質に照射されると、その物質は瞬時にプラズマ化される。この際の電離度情報は、レーザー照射に伴う様々な物理現象に影響する重要なパラメータの一つであるが、微細な空間構造を伴って高速に変化するため、現在までにその情報を十分な時間・空間分解能をもって診断する技術は確立されていない。本研究で開発する手法は、X線自由電子レーザー(XFEL)をプローブとして用いることで、その短パルス性能と高輝度な特性を活用し、このような診断を可能にするものである。本研究において、この手法の開発に向けた実験は、XFEL施設SACLAのハイパワーレーザー利用実験基盤において実施する計画である。 2022年度には、提案している診断手法で重要な測定器であるX線発光分光器について、効率的な信号取得を目指して分光結晶としての円錐曲面結晶が導入され、ノイズ低減を目指した電子偏向用磁気回路の導入準備にも取り組んだ。2023年度には、これまでに開発してきた装置を活用し発光X線の高SN比の実現を試行するとともに、試験的測定を行なった。その結果、信号のSN比が従来に比べて大きく改善することが確認できた。ただし、これらの試験の中で、ショット毎のデータの揺らぎが無視できず、本手法における新たな課題になりえると懸念された。そこで、当初計画にはなかったが、この揺らぎの背景となる物理的要因の検討に向けた追加の観測システムの立ち上げに取り組んだ。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでの研究によって、本研究の主たる計測器であるX線発光分光器について、従来に比べてそのSN比を大幅に改善することに成功している。これは本研究で取り組む新しい計測手法の確立のために必須の非常に大きなステップである。一方で、この改善によってショット毎のデータの揺らぎが明確になってきた。これは従来のSN比が低かった時には十分に把握できていなかったものである。これについては当初計画になかったことであるが、すでにその対応に向けた取り組みを開始している。この取り組みによりショット毎の揺らぎの原因が明らかになり、データの揺らぎが抑制できることが望ましいが、仮に抑制できない場合であっても、取得するデータ数の増加で十分な統計数を補うことができればデータの信頼性を確保することは可能であり、計画に顕著な遅延が発生しているわけではない。実際、2023年度には、計画通りに高強度レーザーとXFELを同時に利用した試験的測定を開始ししている。よって、揺らぎの抑制と並行して本研究の主目的である高強度レーザー照射に伴う固体物質の電離度情報の診断法確立に向けた開発研究を実施することには問題はなく、現時点では計画に対して研究は概ね順調に進展していると判断できる。
|
今後の研究の推進方策 |
2023年度に明らかとなったデータの揺らぎは、主に試料へのレーザー照射特性の揺らぎに依存していると考えている。従来からレーザー物質相互作用をモニタするための計測系は複数利用していたが、2023年度中には試料からの反射光のプロファイルと輝度を計測するための観測システムの立ち上げを行なっており、これを活用することで、主にレーザー照射時のプラズマ密度プロファイルの揺らぎをモニタすることが可能になると考えている。これらの計測結果から、信号の揺らぎを発生させている物理的機構が明らかになれば、レーザーパラメータおよび試料設計の改良など、信号の再現性向上を目指した取り組みが可能になると期待できる。これと並行して、計画に従って高強度レーザーとXFELを利用した電離度診断を目指した試験的測定を進め、取得された結果を従来型の手法やシミュレーションと比較することでこの手法の妥当性の検証に繋げる。信号の再現性の改善は、この試験的測定のデータ信頼性の向上につながる重要な取り組みであると考えているが、必須というわけではなく、主たる研究の内容は当初より提案している電離度診断手法の実証にあることはあくまで変わらない。
|