研究課題
本研究の目的は、トカマク型核融合炉の性能向上を目指して、高周波によるトカマクプラズマの非誘導電流駆動を定量的に理解し、中心ソレノイドを用いないトカマク運転手法を確立することである。本年度はオフミッドプレーン入射電流駆動シナリオに基づく新しい低域混成波アンテナを製作・設置し、実験を開始した。新オフミッドプレーンアンテナにより、プラズマ電流10kA程度までの非誘導プラズマ立ち上げに成功した。また、新オフミッドプレーンアンテナにより従来の外側赤道面入射及び上側入射アンテナと比べて2倍程度の中心電子温度が実現した。上側入射アンテナ使用時には、リミタからの強い制動X線放射が観測されるが、これは波が電流駆動を担う高速電子を作ると同時に、高速電子の径方向輸送を駆動し、損失をもたらしているためと考えられている。新オフミッドプレーンアンテナ使用時に観測された制動X線放射は上側入射に比べてずっと弱く、高速電子損失が低減されていることが示唆された。オフミッドプレーン入射シナリオは、波の屈折により現行のアンテナよりもプラズマ内側で吸収・電流駆動するように設計された。また、速い位相速度での加速が低磁場側で起こるため、上側入射のような高速電子損失を駆動しないことが期待されていた。初期的な実験結果は、このような数値計算予測と整合している。高周波により駆動されるトカマクプラズマは波の伝搬をサポートするプラズマを波自身が生成する複雑な非線形系であり、その振る舞いの定量的な記述は困難であった。今回設計通りの効果を観測できたことは、数値計算の精度が将来の実験を予測するのに十分な精度に達しつつあるということであり、これは核融合炉の効果的なアクチュエータの設計につながるものである。
2: おおむね順調に進展している
当初予定通り、本年度は新アンテナの製作を完了し、実験を開始した。詳細な新アンテナの電流駆動特性の検証はこれからであるが、理論的に予想していた傾向が明らかに見えており、研究は順調に進展しているといえる。
新しい電流駆動シナリオによる電流分布形成を、偏光計を用いて直接観測することで検証する。外側赤道面入射及び上側入射に比べて新オフミッドプレーン入射ではプラズマ中心部近くで電流を駆動できると予想される。偏光計を用いて実際に両アンテナで形成される電流分布の違いを観測する。新オフミッドプレーン入射は外側赤道面入射による電流駆動効率を大幅に改善できる可能性が数値計算により予測されている。このような複数の電流駆動系の非線形な相乗効果も調べる。実験結果を解析するために、有限軌道幅効果を含む電流駆動計算と拡張電磁流体力学の統合計算コードを開発する。偏光計、硬X線計測との比較により拡張電磁流体力学及び有限軌道幅効果を含むモデルの妥当性を検証する。このような解析から、波によって生成される高速電子のドリフトの効果が電流分布形成に果たす役割を明らかにする。
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