研究課題/領域番号 |
22K03581
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研究機関 | 核融合科学研究所 |
研究代表者 |
宇佐見 俊介 核融合科学研究所, ヘリカル研究部, 准教授 (80413996)
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研究分担者 |
堀内 利得 核融合科学研究所, その他部局等, 名誉教授 (00229220)
森高 外征雄 核融合科学研究所, ヘリカル研究部, 助教 (20554372)
小野 靖 東京大学, 大学院新領域創成科学研究科, 教授 (30214191)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | 球状トカマク / 粒子シミュレーション / 磁気リコネクション / 加熱 |
研究実績の概要 |
将来の核融合炉で求められる高温プラズマを生成する手法として、球状トカマク合体による初期加熱方法が注目されているが、加熱の具体的な機構は未解明のままである。本研究では、球状トカマク装置内で2つのプラズマを磁気リコネクションを通して合体させる状況を模擬した粒子シミュレーションを行って、具体的な加熱機構を調べている。2022年度は、マクロ・ミクロ両方の視点から加熱機構の解明を進めた。マクロ的な視点からは、加熱プロセスは圧縮加熱と粘性加熱から成り、それぞれ起こっている場所やタイミングが異なることを見出した。また、2つの加熱機構のトロイダル磁場依存性を調べ、トロイダル磁場がある程度高い場合、2つの合計加熱量は大きく変わらないが、それぞれの加熱量はトロイダル磁場強度に大きく依存することを見出した。一方ミクロ的な視点からは、速度分布関数を調べることにより、リング型・部分リング型のイオン速度分布関数を見出し、このことから圧縮加熱は真の圧縮による加熱とピックアップライクな機構による実効的加熱から構成されていることを明らかにした。このような速度分布は、合体中だけでなく合体後にも形成されること、合体中と合体後で基本的な形成過程は同じだが、大きく異なる部分があることを突き止めた。 粒子シミュレーションモデルの発展面としては、境界条件をより実際の実験装置に近い状況に改良するなどの工夫を行った。またコード高速化のため、上記シミュレーションを最も実行するスーパーコンピュータがベクトル機であることから、ベクトル機向けの最適化処理を多く組み込んだ。 一方で、東京大学の球状トカマク装置TS-6などに新しい計測装置を組み込んで、プラズマ合体実験を進めることで、静電ポテンシャル、温度の2次元プロファイルなどを測定できるようになっている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
メイン成果となる球状トカマク合体の粒子シミュレーション研究面では、計画よりも遅れている面と進んでいる面があった。マクロな描像では粘性加熱である加熱のミクロな運動論的過程を解明する予定であったが、条件によって大きな違いが見られることが分かり、全体像の把握には至らなかった。しかし、一方の圧縮加熱をミクロな視点で見た成果として、リング型・部分リング型の速度分布に関する研究は当初の計画以上に進めることができた。特に、合体中と合体後でどちらが形成されやすいかの違い、形成過程の違いがある点などを見出し、理論的にも説明できたことは大きな進捗であった。加えて予備的な結果ではあるが、熱の拡散・輸送過程がトロイダル磁場強度によって大きく異なること、そのため温度の空間プロファイルに大きな違いが生じることを発見したことも、当初計画以上の大きな進展である。 また、計算結果に大きな影響は及ぼさなかったが、シミュレーションモデルの境界条件を改良したことは予定通りの進捗である。計算時間の大幅な短縮には至らなかったものの、シミュレーションコードにベクトル機向け最適化処理を施したことも計画通りであった。 実験面では東京大学の球状トカマク装置TS-6で、その全てが本研究課題研究費による貢献ではないが、多くの計測装置を組み込み、それによる新しい実験を多くのパターンで進めることができたので、想定した計画以上に進んだと評価できる。 以上から、全体としては本研究課題の進捗状況は「おおむね順調に進展している」と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
用いている粒子モデルの改良・高速化を行いながら、そのモデルを用いた粒子シミュレーションを行い、実験グループとも連携しながら球状トカマク合体におけるプラズマ加熱過程探求を継続する。粒子シミュレーションによる研究面では、マクロ視点で見た場合に粘性加熱に属する機構について、粒子速度分布や粒子軌道を解析することで、ミクロな運動論的過程を明らかにする。一方で、リング型・部分リング型の速度分布からマクスウェル分布に近づくような過程、すなわち、実効的な加熱から真の加熱への変換が起こるか調べる。視点を変えればこのトピックは、リング型・部分リング型速度分布からどのような不安定性が駆動されるのか、という側面も持つ広がりのあるものである。また、加熱されたプラズマは合体点を中心に回転しつつ装置内全域に広がるが、その振る舞いはトロイダル磁場強度によって大きく変わることが示されたので、拡散・輸送といったマクロな描像に潜むミクロな根本過程を解明し、装置内のどこでどのように発生するのか明らかにする。 モデルの改良面では、今までの粒子シミュレーションでは2つのプラズマには人為的な力を加えずに合体させていたが、より実験に近い状況に対応するため、人為的な力をかけて合体させる方法をコードに組み込む。また、初期に設定した平衡解をより精度の良いものに改善していく。コードの高速化の面では、スパコンベンダーの協力も得ることを視野に、さらなる並列化を推し進める。 実験との連携面では、東京大学トカマク装置TS-6などで測定された2次元プロファイルと粒子シミュレーション結果を直接比較するなど、連携をさらに深める。
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次年度使用額が生じた理由 |
現地での開催を予定していた学会がオンライン開催となり、国内出張費として予定していた旅費を使用しなかった。また、無停電電源装置の購入を取りやめた。 研究計画を練り直し、2023年度の国内・国際会議の参加費や、シミュレーションデータ保存用のハードディスクドライブ、解析ソフトウェア購入に使用する。
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