研究課題/領域番号 |
22K03585
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研究機関 | 静岡大学 |
研究代表者 |
荻野 明久 静岡大学, 工学部, 准教授 (90377721)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 水素キャリア / プラズマ / 水素化マグネシウム / 酸化マグネシウム / 水素化ホウ素ナトリウム / メタホウ酸ナトリウム |
研究実績の概要 |
再利用可能な粉体水素キャリアとして期待される水素化ホウ素ナトリウム(NaBH4)は、水との反応で多量の水素を生成できる。この水素発生反応後の副生成物であるメタホウ酸ナトリウム(NaBO2)からNaBH4を再生する循環利用プロセスの実現において、水素化マグネシウム(MgH2)が重要な役割を担う。本研究では、プラズマプロセスを用いてMgH2の生成効率の向上と生成コストの軽減を目的とし、(1)プラズマ生成用水素ガスの消費量を従来の1/20以下に低減し、(2)海水から塩を取り除いた苦汁を原料として安価に採取できる水酸化マグネシウムまたは酸化マグネシウム(MgO)粉末を原料とするプラズマプロセスについて検討した。実験では、海水を主原料として得られたMgO粉末をマイクロ波励起水素プラズマを用いて水素化し、ラマン分光法およびX線光電子分光法によりプラズマ処理した試料の構造変化を評価した。 水素プラズマによるMgOの水素化では、プラズマ中の水素イオンおよびラジカルが水素化に寄与する。一方で、プラズマエッチングにより、生成したMgH2から水素が脱離する。また、過剰なプラズマ照射は試料温度の上昇を招き、MgH2から水素脱離が加速するため、プラズマ処理条件を最適化する必要がある。水素プラズマ処理による試料温度およびイオン照射量に伴うMgOの還元および水素化をラマン分光法により解析した結果、MgOからMgH2生成の中間体と思われるMgHx、および欠陥構造のMgH2と思われるMgHxがイオン照射量に応じて変化することがわかった。また、MgH2は試料温度が150~200 ℃の範囲で生成され、イオン照射量の増加に伴いMgH2核の面積が増加傾向であることが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
水素化ホウ素ナトリウム(NaBH4)または水素化マグネシウム(MgH2)に転化するための非平衡プラズマプロセスを実現するためには、1)プラズマによるメタホウ酸ナトリウム(NaBO2)または酸化マグネシウム(MgO)の還元処理とその評価、2)プラズマ処理条件の組み合わせと効率化の検討、3)効率化のためのメカニズムの理解が必要である。これまでに、NaBO2またはMgOの還元処理と評価を実施しており、プラズマ処理の効率化に向けた処理条件の最適化を進めている。現在、水素化に有効と考えられるイオン照射量と試料温度の範囲が明らかになりつつある。 さらに、プラズマに接する試料や容器壁からの放出ガス(水分子など)の影響を評価する過程で興味深い結果が得られた。これらの放出ガスやプラズマ還元反応で生じた水分子はマグネシウム(Mg)およびMgH2と再反応し、水酸化マグネシウムMg(OH)2が生成されると考えられる。生成されたMg(OH)2の温度が低いと反応は終息するが、試料温度が高いと反応が止まらず熱分解し、MgOが生成されると考えている。その結果、MgOは再びプラズマによって還元され、MgおよびMgH2が生成される。試料表面に一様なMgH2層が形成されると試料内部への新たな水素拡散が制限され反応が終息するが、Mg(OH)2とMgOを経由する反応サイクルを形成することで、試料内部への水素拡散が継続するとともに、試料の構造変化に伴う密度差により生ずるクラックが水素ラジカルの侵入経路となり、水素化が進行すると思われる。
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今後の研究の推進方策 |
非平衡プラズマによる酸化マグネシウムの水素化効率向上のため、反応メカニズムの検討を進める。これまでの研究により、プラズマ反応過程で生成される水分子が、水素化において重要な役割を果たす可能性が示唆されている。その反応メカニズムの検討では複合的なプラズマ診断の結果が必要となる。そこで、ラングミュアプローブ法による電子温度、プラズマ密度の測定に加え、プラズマ発光分光測定ならびにエレクトロクロミック現象を用いて水素ラジカル量を評価する。それらの結果を検討し、必要であればプラズマ処理時のガス組成の変化を四重極質量分析器により評価する。 また、バイアス印加により試料へ入射するイオンエネルギーと試料温度を制御し、試料の分子結合に及ぼす影響をX線光電子分光法およびラマン分光法により調べる。応用に向けた評価としては、プラズマ処理した試料を水と反応させたときに発生する水素量を検知管により測定し、発生した水素量に対するプラズマ診断結果の関係について検討する。
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