研究課題/領域番号 |
22K03592
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研究機関 | 大学共同利用機関法人自然科学研究機構(新分野創成センター、アストロバイオロジーセンター、生命創成探究 |
研究代表者 |
定塚 勝樹 大学共同利用機関法人自然科学研究機構(新分野創成センター、アストロバイオロジーセンター、生命創成探究, アストロバイオロジーセンター, 助教 (40291893)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | ストレス応答 / 細胞周期 / プラズマ / 酸化ストレス / 酵母 / 細胞分裂 / 遺伝学 / 分子生物学 |
研究実績の概要 |
本研究では、細胞に熱ショックを与えることなくプラズマ刺激が誘導する細胞応答を調べることを目的とした。導入するヘリウムガスをペルチェで冷却し、排出するプラズマジェットと細胞との作用点の温度を制御できる装置を開発した。この装置を使い、モデル生物の出芽酵母を利用して、プラズマジェットの直接暴露実験の条件を検討した。 成果として、① 増殖中の酵母にプラズマ照射すると、照射時間に応じて生存率が低下するのに対して、静止期(stationary phase)の酵母に照射した場合には生存率の低下が抑制されることが判明した。② 増殖中に照射した場合でも、生存率の低下が抑制される(耐性化)変異株(Plasma Resistant Mutant:prm1)を見出した。この耐性化したprm1変異株と感受性株(wt)をかけ合わせて作成した2倍体由来の4つの胞子では、プラズマに対する耐性化能が2+:2-で分離することがわかり、単一の変異が原因であると推測できた。③ ゲノムシークエンスによるSNP解析から原因遺伝子(PRM1 gene)を同定した。④ prm1遺伝子は細胞分裂期に働くことが報告されている遺伝子で、耐性化の原因となる変異により細胞が塊状になる特徴が観られた。酵母ではFLO遺伝子により細胞が塊状になることが知られているが、FLOによって塊状になった場合ではプラズマに耐性化しないことを確認した。これらの結果から、単純に細胞が塊状になることが原因ではなく、細胞分裂制御とプラズマ刺激に対する応答の関係が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
プラズマ刺激に対して耐性化能を示した株を利用して、原因遺伝子と変異について、予定通り特定することができた。さらにこのPRM1遺伝子と遺伝的相互作用のある遺伝子群の中に、その遺伝子の欠損株でprm1変異と類似して細胞塊が観察されるものが観られた。今後、この遺伝子の欠損株のプラズマ刺激や酸化ストレスに対する耐性能を比較して解析を進めることで、プラズマに対する応答に関与する遺伝子群の探索を予定している。また酵母へのプラズマ直接暴露実験の条件検討も進み、RNA seqによる発現変動解析を実施するための条件検討も順調に進めることができている。
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今後の研究の推進方策 |
これまでに同定したPRM1 遺伝子に加えて、PRM1と遺伝的相互作用がある遺伝子群の中に、prm1変異株と類似した性質を示すものを見出した。今後は遺伝学的手法により、プラズマ刺激に対する応答に関与する遺伝子群の探索をさらに進める。 またプラズマ直接暴露実験の条件が整ってきたので、プラズマ直接照射による細胞応答を、RNA seq法により細胞レベルで発現変動する遺伝子群の解析を予定している。プラズマによって活性酸素等を含む多様な活性種が生成され得る。そこで代表的な酸化ストレス刺激である、過酸化水素水による刺激を加えた場合とプラズマ直接暴露の場合を比較しながらRNA seq法による発現変動解析を計画している。
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次年度使用額が生じた理由 |
RNA seq法による発現変動解析のために使用する予定をしていたが、その条件探索の過程に時間がかかり、実施にRNA seq用のサンプル取得にまでは進まなかったものの、照射条件やサンプリングタイムコースの条件がようやく整った。次年度初期には発現変動解析に取り組む予定になっている。
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