研究課題/領域番号 |
22K03596
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研究機関 | 立命館大学 |
研究代表者 |
横山 修一 立命館大学, 理工学部, 助教 (50773389)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 一般相対性理論 / ゲージ重力双対性 / AdS/CFT対応 / 場の量子論 |
研究実績の概要 |
本年度の研究目的の一つは、フロー方程式を用いたゲージ重力双対性を実現する研究において、共形場理論における励起状態に対する重力理論の対応物を明らかにすることであった。従来のフロー方程式を使っていてはうまくいかなかったため、発想を転換し従来のフロー方程式を変形して共形対称性を尊重するようなフロー方程式を探し出して、これによって観測量の粗視化を行うと解釈がうまくいくことが判明した。その結果、共形場理論から出発して何ら仮定を置くことなしにバルクの時空としてAdS時空が導かれることと同時に、AdS/CFT双対性において基本的な対応関係として知られているGKP-Witten関係式が導出されることが分かった。以上の結果を共同研究者と論文にまとめ国際誌に投稿し受理された。 もう一つの研究目的である、近年提唱した一般の曲がった時空における物理量、特にエントロピーの定義の有効性を調べるため、通常観測される安定な天体の模型である球対称な静水圧平衡系に対して提唱したエントロピーを計算したところ、局所オイラー関係式と熱力学第一法則を満たすことが判明した。特に、この関係式において現れる温度が1930年の論文でTolmanによって導出された局所温度と完全に一致することが分かった。またこの局所温度は現在知られている一般相対性理論の標準的教科書でもいくつか別の方法で導出されている。そしてこの方法を用いて縮退星の模型であるエネルギー密度が一様になる静水圧平衡系に対して、これまで計算されていなかった局所熱力学量であるエントロピーや温度を計算してそれらの具体的な表示を与えることに成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
今回のフロー方程式の方法による研究成果によって、共形場理論の動力学がAdS空間上で実現される重力理論の動力学に対応することを、まだ一部の励起状態のみではあるが、実際に示すことができた。この成果は、AdS/CFT双対性の文脈において、双対な幾何と重力理論とが実際に創発されることが具体的に示されたという点において、重要な意義を持つ結果である。 また、物体の圧力による斥力と重力による引力が釣り合う静水圧平衡系は太陽や中性子星といった一般の天体の模型となる。クラウジウスがエントロピーという概念を創始しヘルムホルツとケルビンが太陽を熱力学的物体とみなしてその寿命を調べた研究から100年以上経っていたにもかかわらず、恒星を模した静水圧平衡系に対するエントロピーの具体的な表示は知られていなかった。そのような中、本研究によって球対称な静水圧平衡系においてエントロピーが存在しその具体的な表示を与えることができたことは盛大な快挙以外の何物でもない。
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今後の研究の推進方策 |
今回のフロー方程式を用いたゲージ重力双対性の研究によって、励起状態の対応への研究の基礎が出来上がった。今回の対応では最も簡単な励起状態の対応に限って調べたため、今後は異なる励起状態に対しても重力側の対応物を構成することができるかどうか研究することを計画している。 その一方今回の曲がった時空上での物理量の研究によって、曲がった時空上における局所熱力学の基礎が確立した。その要と言える関係式は、局所オイラー関係式と熱力学第一法則であり、これらを満たすように局所熱力学諸量が定義される。今後は、球対称な静水圧平衡系にさらに性質を追加して、より現実の天体に近い模型に対して今回の研究成果を応用することを検討している。
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次年度使用額が生じた理由 |
新しい所属機関において購入を考えていたソフトウェアの共用ライセンスがあったため、それらを用いることで今回の科研費による支出を抑えることができたことが理由として挙げられる。また、所属機関が異動になったことにより業務が増え多忙になったため、研究時間を捻出するために、一部の研究会への出席や研究集会の開催を控えることにしたことが次年度使用額が生じた理由である。 予算使用計画として、ある程度研究成果がまとまってきた段階で研究会への集中的な参加、集中講義や国際研究集会の開催などに充てることを考えている。
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