研究課題/領域番号 |
22K03601
|
研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
檜垣 徹太郎 慶應義塾大学, 理工学部(矢上), 講師 (10629059)
|
研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2027-03-31
|
キーワード | 超弦理論 / 超弦理論現象論 / モジュライ / モジュラー対称性 / モジュライ固定 / 沼地予想 |
研究実績の概要 |
出版論文1本とプレプリント論文3本(すべて査読中)を執筆した。また、複数のオンラインと対面研究会に参加して研究成果を発表し、資料の集中を行った。 出版論文については、超弦理論のモジュライ場の1つであるアクシオン場が、有限密度かつ有限磁場のときにつくるソリトン解(カイラルソリトン格子)の生成条件について議論した。もし生成がトンネル効果のような核生成を通じて起こるとすると、理論の上限カットオフスケール以上に大きな磁場や密度が必要で、一般には生成が難しいことが分かった。 プレプリント論文については、超弦理論に備わっているモジュラーフレーバー対称性について現象論的応用に注目した。モジュラーフレーバー対称性は、超弦理論のモジュライ場がSL(2,Z)変換を受けるときに物質場がフレーバーごと変換される対称性で、理論全体を制御する。この対称性は、素粒子標準模型のクォークとレプトンのフレーバー構造をうまく説明するために、これまでに業界で使われた S4 やその2重被覆の S4' などの離散対称性を含むことが知られている。2つのプレプリント論文で、我々は S4 と S4' のモジュラー対称性を用いて、具体的にクォークとレプトンの質量(湯川結合)階層性を自然に実現する模型を構築した。なお「自然に」というのは、模型に存在するパラメータが全て同じ程度の大きさの意味である。残る1つのプレプリント論文では、モジュラーフレーバー対称性によって制御できるインフレーション模型を具体的に構築した。モジュラー対称性のおかげでモジュライ場のポテンシャルが平坦になりやすく、モジュライ場がインレーションを起こして宇宙を指数関数的に膨張させるエネルギーを長く供給しやすいことが分かった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究計画調書の1年目の予定は次の通りであった:「(1)4次元の超重力理論で具体的なモジュライポテンシャルに注目し、普遍的な性質を通じて新しい沼地予想を構築する。(2)モジュラー対称性をもった素粒子模型を手で構築し、量子異常を解析する。この模型の量子論的対称性を同定する。」 このうち、(1)についてはモジュラー対称性に基づいて具体的な超重力理論模型を構築し、インフレーションに応用した。この時に「弱い重力予想」の沼地予想とは議論した限りでは無矛盾なことを見つけた。新しい沼地予想については、現在議論中である。 (2)については、S4 あるいは S4' のモジュラーフレーバー対称性を持った具体的で自然な模型を構築した。特に、S4' 対称性を用いると、標準模型に含まれるすべての物質場の質量階層性が、実験と無矛盾な範囲で自然に実現されることが分かった。 このように計画通りに遂行できたので、順調に進展していると理解できる。
|
今後の研究の推進方策 |
研究計画によると次のとおりである:「(1)磁束に影響されないモジュライにも注目し、弦や膜の巻き付きを含めたポテンシャルの解析を行い、膜電荷の保存条件と組み合わせた沼地予想を構築する。(2)沼地予想の結果を量子論的な対称性を持った素粒子模型に適用し、得られる質量の予言を試みる。(3)素粒子質量を実現するモジュライの値を制限し弦理論にフィードバックする。」 弦理論において、広い意味での非摂動効果を含んだモジュライのポテンシャルに注目してモジュライ固定を考えたい。特に弦理論のフラックスを用いたモジュライ固定法が、弦理論の無矛盾条件(タッドポール条件)とどのようなに整合するか議論したい。特にその時に、モジュラー対称性がどのような役割を果たし、無矛盾条件(沼地条件)どのように関係するのか議論したい。これまでの研究で、例えば、モジュライの値が特別な時に、無矛盾な弦理論が得られる可能性がある事が知られている。それゆえ、モジュラー変換SL(2,Z)に対して、モジュライ場の値が、不変な値になっている可能性がある。このような可能性を含めて議論したい。
|
次年度使用額が生じた理由 |
計画には物品のうち特にコンピューターの購入金を計上していたが,今年度は手持ちのコンピューターを用いて研究を遂行したので購入しなかった。そのため物品費が予定より少なくなった。 この2023年度は、この金額をコンピュータの購入に使用予定である。
|