研究課題/領域番号 |
22K03608
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研究機関 | 群馬工業高等専門学校 |
研究代表者 |
高橋 徹 群馬工業高等専門学校, 一般教科(自然), 教授 (70467405)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | ハドロン構造 / 格子QCD / エンタングルメントエントロピー / カラー相関 / カラー構造 |
研究実績の概要 |
令和4年度には、ハドロン内部の構造に直結する内部カラー構造を、クォーク・反クォーク系の基底状態・励起状態について解析した。計算手法として、強い相互作用における非摂動的計算の代表格である格子QCD計算を用いた。格子間隔は0.14fm, 格子サイズは32^3のものを採用した。格子間隔依存性や体積依存性については、2019年の申請者の論文にて詳細に確認を行ったため、今回は1種類のパラメータでの計算を行った。この時、複数の生成消滅演算子を用意し、相関行列を対角化することで、基底状態・グルーオン的励起状態の解析を行った。励起状態は多数の異なる量子数を持つ状態が存在するため、エネルギーの低い方から数えて4つ分の状態の解析を行った。 その結果、基底状態の場合、クォーク・反クォークペアの距離が近い時には(クォーク・反クォークペアは)color singlet状態を形成しているが、ペア間の距離が増大してフラックスチューブが形成されると、クォーク・反クォーク間のカラー相関は遮蔽されていき、カラー配位がrandomカラー配位に近づいていくことがわかった。また、この遮蔽度合いの距離依存性を定量化することもできた。 一方、グルーオン的励起状態の場合、クォーク・反クォークペアの距離が近い時には(クォーク・反クォークペアは)color octet状態を形成するしていることがわかった。これはハイブリッドハドロンの描像(octet状態を組んだクォーク・反クォークペアにcolor octet状態のグルーオンが結合した描像)をサポートする結果である。クォーク・反クォークペアの距離が増大すると、基底状態の場合と同様にカラー相関は遮蔽されていくが、その遮蔽度合いは励起状態の量子数に依存することもわかった。 これらの結果はハドロンの内部構造に関する重要な知見を与えるものであり、日本物理学会で発表された。現在論文執筆中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初の予定では、令和4年度中には、様々なクラスター構造を持つクォーク多体型内部のカラー相関の様子やエンタングルメントエントロピーを計算し、クラスター種別とカラー構造の対応付けを進める予定であった。具体的には、「1. バリオンに対応するクォーク3体系」「2. ハイブリッドハドロンに対応するグルーオン的励起状態」の各クラスターに対して、計算・解析を行う予定であった。 このうち、「2. ハイブリッドハドロンに対応するグルーオン的励起状態」に対する解析は概ね順調に終了したが、「1. バリオンに対応するクォーク3体系」の解析は未完了であり、今後行う予定である。 この遅れの理由であるが、一つにはグルーオン的励起状態の量子数の種別の多さが挙げられる。量子数が多数存在することは事前にわかっていたため、低励起状態のみに着目して解析を進める予定であったが、その低励起状態で得られた知見を確固たるものにするために、結局、やや高めの励起状態も解析する必要が出てきたためである。 しかしながら、それらの計算も順調に進めることができ、経験やノウハウも得られたことを考えると、概ね想定内の進捗度合いであるとも言える。
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今後の研究の推進方策 |
令和5年度には、バリオンに対応する静的クォーク3体系におけるカラー構造の解析を進める予定である。その研究を遂行した後、クォーク4体以上を含む系の解析に着手する。令和6年度には、動的なクォークを用いた計算を遂行し、現実のハドロンの内部カラー構造を解析し、各種マルチクォーク粒子(の候補とされる粒子)の内部構造同定を進める予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初の計画では、令和4年度に計算用GPUや計算サーバーを購入し、研究を進める予定であったが、半導体不足等によるGPUの価格高騰の影響が残っており、予定金額を超過してしまう可能性が高かったため、令和4年度中の購入を見送った。また、コロナ禍の余波でオンライン開催が続いた学会もあり、予定されていた出張費が不要となったことも理由の一つである。令和5年度には、計算用GPU購入や計算サーバー購入を行う予定である。
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