研究課題/領域番号 |
22K03634
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
西道 啓博 京都大学, 基礎物理学研究所, 特定准教授 (60795417)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2027-03-31
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キーワード | 宇宙大規模構造 / 宇宙論パラメータ / 銀河統計 |
研究実績の概要 |
2022年度は、様々な仮定のもとで数値シミュレーションにより生成した模擬銀河サンプルの構築、及び、これを理論モデルを用いて統計解析する数値コードの整備を行った。前者に関しては、多様な銀河・ハロー関係を数値的に実現するために、これまで利用してきた動径方向の密度プロファイルに加え、様々な距離スケール、動径方向の重み関数に対応した楕円率を、ハロー、サブハローの階層構造を適切に加味してシミュレーションデータから高速に測定するコードの開発に成功した。また、機械学習モデルの一種である「エミュレータ」による理論テンプレートを用いて、前述のデータベースを解析することで、ハローの質量のみの関数として銀河を撒く最も単純な理論モデルの限界を定量的に明らかにした。これによると、単一のハローの内部の銀河分布で決まる、いわゆる「1-halo term」が支配する小スケール領域まで情報を解釈しようとすると、宇宙論的な揺らぎの大きさの推定に無視できないバイアスが生じる一方で、そのような状況下でも、バリオン音響振動と呼ばれる大スケールの兆候を手がかりに、宇宙の膨張則を決めるパラメータの組み合わせは常に無バイアスに測定可能であることを明らかにした。一方で、同時に進行中の系統的な摂動展開に基づく理論テンプレートによる統計解析に関しては、利用する予定だった公開コードの宇宙論パラメータ空間サポート範囲が不十分であることが判明したため、これに変わるコードの開発に着手している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
数値シミュレーションのデータベース構築・整備に関しては、新たなコードが予定より早く実用段階まで到達した。一方で、摂動展開に基づく解析については、「概要」で述べたように計画の一部変更を余儀なくされた。これらを総合的に勘案し、当研究計画全体としてはおおむね順調と判断している。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度に引き続き、摂動展開に基づく理論テンプレートの完成を最優先課題として進める。こちらの進捗を見つつ、模擬銀河サンプルに関しては、今年度は銀河・ハローの間の速度構造の対応関係の複雑化に取り組む。これは、近年の流体シミュレーションによる銀河形成の研究において指摘されている銀河の速度バイアスの効果について検証し、これが宇宙論パラメータ推定に及ぼす影響を定量的に明らかにするためである。これに対応して、データ解析側では銀河の特異速度場の影響による大域的銀河分布の見かけの異方性である「赤方偏移歪み」の影響が入ったものに更新する。これにより、「銀河の速度構造の不定性に依らず、ロバストな宇宙論パラメータ推定が可能か」、「小スケールの銀河の速度構造は新たな宇宙論的情報をもたらすか」の2点に対して定量的に答えを出す。
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次年度使用額が生じた理由 |
2022年度に生成したシミュレーションデータは、国立天文台天文シミュレーションプロジェクトが運営する共同利用計算機のファイルサーバに格納することができた。このため、予定していたファイルシステムの購入は次年度に延期した。なお、上記の国立天文台のシステムには、容量制限が設けられており、次年度の研究を遂行するにはいずれにせよデータの引き上げが必要となる。
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