研究課題/領域番号 |
22K03643
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研究機関 | 大阪工業大学 |
研究代表者 |
明 孝之 大阪工業大学, 工学部, 教授 (20423212)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | 核力 / テンソル力 / クラスター / 第一原理計算 / 分子動力学 / 高運動量 / 共鳴 / 複素スケーリング |
研究実績の概要 |
1) 現実的核力を用いて原子核を記述する理論「テンソル最適化反対称化分子動力学」(TOAMD)の課題は、1-a)相関関数を決める変分パラメータが多いことと、1-b)共鳴や散乱状態が扱えないことであった。本年度はこの問題の解決に取り組んだ。1-a) 多数の変分パラメータを含むAMD基底関数の線形結合で表される全波動関数に対して、すべてのパラメータを全エネルギーの変分で決める「multicool」という手法を開発し、その有効性を軽い核で示した。例として10Beにおいて複数の基底関数を同時に最適化し、様々なクラスター構造が基底・励起状態に現れることを示した。1-b) Brink模型等の微視的な原子核クラスター模型に、共鳴を解く理論「複素スケーリング法」を適用する定式化を構築した。その結果、クラスター間の相対運動から出現する共鳴の記述が可能になった。 2) 複素スケーリング法による原子核共鳴の解析を行った。2-a) 不安定核の新奇な共鳴を予言した。前年度に中性子過剰核8Heにおいてα粒子と4中性子が逆位相で振動する「ソフトダイポール共鳴」を予言した。同様の状態がミラー核である陽子過剰核8Cにも存在することを予言し、空間的な性質の類似性も確認した。2-b) バリオン間相互作用の知見を得るために、Λ粒子を含む中性子過剰ハイパー核の構造を実験に先駆けて調べた。中性子過剰He同位体にΛ粒子が付加された状態をα+4中性子+Λ粒子の6体問題を解くことで、エネルギー準位を予言した。 3) 原子核クラスター模型ではパウリ排他律を満たす波動関数を求める。具体的にはクラスター間の相対運動について、パウリ禁止状態に直交する基底関数を用いる。本年度はその枠組みを構築した。基底関数は調和振動子型であるが、禁止状態に直交しつつ広がりパラメータが可変である特徴があり、弱束縛や共鳴の記述に適している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1) TOAMDの2つの問題点を解決する手法を発展させることができた。これによってTOAMDの相関関数を複数のガウス関数で展開するときに、多くの変分パラメータを効率良く決めることができる。また、計算で求まった原子核の励起状態が共鳴なのか連続状態かどうかの判別も複素スケーリング法により可能になった。 2) 本研究によってソフトダイポール共鳴を中性子過剰核と陽子過剰核の両方で予言することができ、より一般的に存在する集団運動的な励起状態であることが示唆された。今後は、同様の多中性子群・多陽子群の共鳴が他の不安定核でも存在するのか検証していく。 3) 不安定核やハイパー核の未知なエネルギー準位を実験に先駆けて予言し、その構造の特徴の解析や、元となる相互作用の性質を検証することができた。 4) 原子核の理論的記述において、パウリ原理を満たしつつ核子の空間的分布を最適化できる基底関数を構築することができた。従来は核子の運動方程式にパウリ禁止状態へ直交化する拘束条件を付加していたが、新しい基底関数ではこの条件は不要になり、数値計算が軽減する利点がある。 以上の成果により進捗状況は順調であると評価した。
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今後の研究の推進方策 |
1) 現実的核力を用いて原子核の共鳴と散乱を記述するために、複素スケーリング法(CSM)をTOAMDに適用する。まずはTOAMD+CSMの理論体系を完成させる。その後、軽い核で現れる共鳴や散乱現象を解析する。またTOAMDの試行関数に含まれる変分パラメータの決定には実績欄で述べた「multicool」を用いる。 2) 無限核物質についても現実的核力を用いた変分計算を行う。枠組みには無限系の一部分のエネルギーを計算する有限粒子数法を用いる。TOAMDと同じ形式の相関関数を用い、その多重積により多体相関を核物質に取り入れる。その際は1)のmulticoolを用いて相関関数の形状を効率的に最適化する。 3) Brink模型等の微視的クラスター模型に複素スケーリング法を適用し、共鳴の解析を行う。2α系では成功したので、3体クラスター系以上への適用を試みる。 4) パウリ原理を満たす新しい基底関数を用いたクラスター状態の解析を進める。特に多αクラスター系への適用を計画している。
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次年度使用額が生じた理由 |
2023年夏に海外の共同研究者と打ち合わせのための渡航を予定していたが、本務先の業務の関係で取り止めた。また2023年秋に予定していた海外での国際学会についても、学期中であるため大学の用務を優先し、取り止めた。そのために次年度使用額が生じた。今後は研究室にある数値計算用のワークステーションの設備の拡充に予算を充てる。主には大容量メモリとHHD,SSD等の記憶媒体の増設となる。また国際学会、国内学会、および国内と国外の共同研究者との研究打合せの旅費にも使用する予定である。
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