研究課題/領域番号 |
22K03645
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研究機関 | 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構 |
研究代表者 |
山田 憲和 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 素粒子原子核研究所, 講師 (50399432)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | QCD / 素粒子 / トポロジー / θ真空 |
研究実績の概要 |
4次元ヤン=ミルズ理論におけるθ-T相図の解明に向けた研究を行った。2022年度当初は、SU(3)理論の相転移温度のθ依存性の探索を行った。まず手始めに相転移温度近傍の配位をいくつか生成し、各々でPolyakov loopの空間平均のhistogramから対応する有効ポテンシャルを構築し、1次相転移に特有なdouble well型を確認した。その後、reweightingによりθを導入し、double wellの2つの底が同じ深さになるcritical βの値のθ依存性を見出した。この単純な方法でもθ~π/4 程度まで探索することができた。結果は、θが大きくなるにつれて相転移温度が下がることが分かった。この研究は、論文にまとめJHEP誌で発表した。次なる課題は、今回採用した方法では、おそらくこれ以上大きなθの領域を探索することは難しいため、θ~πまで探索することができる信頼できる新たな手法を開発する必要がある。 年度の中頃辺りからは、閉じ込めとカイラル対称性の関係の有無についての考察を行った。この問題は古くから議論されている問題であるが、未だスッキリとした理解は得られていない。その理由は、これまで閉じ込めはクエンチ近似の理論で、カイラル対称性は動的配位の理論で別々に調べられてきたからである。当研究では、定量的な厳密性は求めず、まずは定性的な理解を目指すことにした。基本的な戦略は、まずクエンチ近似で配位を生成し、オーバーラップディラック演算子の固有値を小さい方からできるだけたくさん計算し、それらを使ってreweightingを行い近似的な動的シミュレーションを行うことである。固有値の計算にはかなりの時間を要するが、実際カイラル対称性を厳密に持つフェルミオンを用いて意味のある動的配位を生成することよりは遥かに容易である。いくつかの予備的な解析を行ったところである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ディラック演算子の固有値の計算に時間を要しているが、概ね計画通りである。
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今後の研究の推進方策 |
引き続きθ-T相図の完成を目指す。2023年度は、SU(3)理論だけでなくSU(2)理論へも研究を拡げる。この両理論は基本的には似ているが、いくつかの大きな違いがある。一つは相転移の次数であり、この違いにより計算は難しくなると予想されている。それに加え、SU(2)理論のθ=π近傍の理論の振る舞いは、2次元のCP^1模型と同じになるという予想がある。一方、SU(N)理論で N >=3 のとき、θ=πでCP対称性が自発的に破れていることが予想されている。このような違いの有無を数値計算で確認することが大きな目標となる。 固有値を用いた閉じ込めとカイラル対称性の間の関係の有無の研究も継続する。前例の無い研究であるため、多少の試行錯誤が必要となるが、試験的な解析で有望な結果が得られているため、少なくとも何らかの新しい知見は得られると予測している。
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次年度使用額が生じた理由 |
少額であり特に理由は無い。
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