研究課題/領域番号 |
22K03657
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研究機関 | 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構 |
研究代表者 |
藤田 陽一 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 素粒子原子核研究所, 専門技師 (80391720)
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研究分担者 |
深尾 祥紀 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 素粒子原子核研究所, 准教授 (80443018)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 半導体センサー |
研究実績の概要 |
本年度の研究実績として、予定通りワイドギャップ半導体の耐放射線センサーとしての有効性を明らかにするため、 1)SiC の基本特性および耐放射線性の評価を行った。その結果、シリコンと比較して小さいリーク電流であること、中性子線照射でリークに変化が見られないことが確認できた。 加えて、前方ミューオン検出器のプロトタイプ製作に向けた開発に着手した。具体的には以下の2点となる。 2)センサー読み出し用 ASIC の試作を行った。構成は 8ch Amplifier - Shaper - Discriminator + 8-bit ADC であり、内部に PLL を実装する。ADC のサンプリングレートは 10MS/s ないし 12.5MS/s である。その結果、基本動作の確認ができた。 3)前方ミューオン検出器のプロトタイプ製作に着手した。ビームチャンバーの直径は 250mm であり、プロトタイプは高さ 220mm の8角形の形状で試作した。プロトタイプは 5mm 角サイズの SiC 256 個を2次元アレイに実装するための薄い 100um 厚のセンサー基板とセンサー読み出しの ASIC 基板からなり、両者の製作を行った。センサー基板はセンサーを実装するビームのあたる中心部と読み出し ASIC 基板の接続用の周辺部に分かれているが、前方ミューオン検出器後段への検出器へ与える影響を最小限にするべく物質量を小さくする必要があり、基板の厚さを 100um で製作している。このため基板のハンドリングを含めて強度が十分であるかなどについては今後評価が必要となる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
1)SiC の基本特性および耐放射線性の評価 試作 SiC センサーの I-V 特性測定を行い、センサーの完全空乏化に必要な 1kV の逆バイアスを印加した際のリーク電流の評価を行った。耐放射線の評価については京都大学複合原子力科学研究所の原子炉において二つのサンプルを 10^12 neutron/cm2 の中性子線照射を行い、リーク電流の変化を調べた。リーク電流については nA オーダーとシリコンと比較して小さい値が得られた。中性子線照射においてもリーク電流はやはり nA オーダーのままで大きな変化が無いことが確認された。 2)センサー読み出し用 ASIC の試作 評価用基板を製作して ASIC のテストを行った。その結果、ASIC 内アナログ部およびデジタル部の各々について基本動作を確認済みである。アナログ部については前方ミューオン検出器が必要とするダイナミックレンジ 20 MIP の直線性が得られた。デジタル部については、基準クロック 80MHz で駆動する PLL(Phase Locked Loop)および ADC のデバッグモード、デバッグ目的で実装したシフトレジスタの動作などを確認済みである。 3)前方ミューオン検出器のプロトタイプ製作 SiC センサーを2次元アレイに実装するセンサー基板およびその基板に接続するための ASIC 基板の製作を行った。基板面における導通試験および高電圧印加試験を行い、問題ないことを確認済みである。
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今後の研究の推進方策 |
2023 年度は前方ミューオン検出器のプロトタイプを製作してビームテストを実施することが目標である。そのために、 2)センサー読み出し用 ASIC の試作 引き続き ASIC 評価を進める。与えた入力信号を取り込み内部 ADC 処理による出力データより入力信号の再構築を行うテストに向けて準備を進めている。このためにテストに用いる FPGA のファームウェアを開発する。続いてこれまでのテストで得られた知見をもとに、また、ミューオンモニターの仕様に適合するよう出力パルス幅の最適化を行うべく、今年度に次の試作を行う。 3)前方ミューオン検出器のプロトタイプ製作 センサー基板に SiC センサーの実装を行い、ASIC 基板との接続によりセンサーの読み出しテストに着手する。前方ミューオン検出器としての動作確認ができた段階でビームテストを計画する。
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次年度使用額が生じた理由 |
SiC センサー試作については I-V 測定や中性子照射用について試作済みであった手持ちのセンサーで済ませることにした。これは前倒しで前方ミューオン検出器のプロトタイプ製作に備えることが重要と考えたためである。これにより、読み出し ASIC の基板製作について予定の評価基板製作に加えて、前方ミューオン検出器プロトタイプ用 ASIC 基板の製作も行った。無事に ASIC の動作が確認できたので、次年度では後者の基板を新規に製作することなく増産することになり、前方ミューオン検出器プロトタイプのテストをスムーズに進めることができる。
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