研究課題/領域番号 |
22K03658
|
研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
丸藤 亜寿紗 東北大学, ニュートリノ科学研究センター, 特任助教(研究) (20704399)
|
研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
|
キーワード | 二重電子捕獲 / ヨウ化ストロンチウム結晶 / 暗黒物質 / ニュートリノの性質 / 無機シンチレータ |
研究実績の概要 |
本研究では、ヨウ化ストロンチウム結晶を用いた検出器のための開発研究を行う。ストロンチウム中には二重電子捕獲を起こす原子核、Sr-84が自然存在比で0.56%含まれている。また、ヨウ化ストロンチウム結晶はヨウ化ナトリウム結晶の2倍以上の発光量を持つとされており、二重電子捕獲/暗黒物質探索実験の新しいアプローチとして期待できる。 初年度は、神岡地下実験施設にあるGe検出器を用いて結晶に含まれる放射性不純物量の測定を行った。使用している結晶は、直径3.81cm、高さ3.81cmの円柱型で、東北大学金属材料研究所で製作されたものである。結晶には強い潮解性があるため、アルミでできたハウジングを使用している。解析結果から、ウラン系列、トリウム系列の不純物量が予想していたより多かったため、今後、ハウジングの部材選定や、結晶に含まれる放射性不純物量見積のスタディを進める予定である。また、結晶原料の純化方法についても検討する。 ニュートリノを伴わない二重電子捕獲では、1.78MeV付近のガンマ線が放出される。Ge検出器で取得したデータを確認すると、この領域ではバックグラウンド量が少なく、先行実験より感度を得られそうであるため、より解析を進め、論文にまとめられないか検討している。また、Kr-84の励起状態への崩壊についても解析を進めている。 その他、基本的性能評価のため、光電子増倍管を用いて、発光量、エネルギー分解能評価を行うための実験セットアップおよびデータ取得システムの構築を行った。現在データ取得を行っており、今後、これらのデータを解析しまとめていく予定である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
基本性能評価のためのセットアップやデータ取得は順調に進んでおり、あとは解析を進めるのみである。 また、Ge検出器での測定から、不純物量が非常に多く、ハウジングの選定や原料の純化が必要なことが明らかになったが、一方で、ニュートリノを伴わない二重電子捕獲の一部の崩壊について、先行実験よりよい感度で制限をつけられそうである。
|
今後の研究の推進方策 |
2023年度は、基本性能(発光量、エネルギー分解能等)の評価を進める。また、波形データの取得も行なっているので、粒子識別が可能かのスタディも進める。10年ほど前に行われた先行研究では、アルファ線とガンマ線であまり差がなく、識別は期待できないと結論づけられているが、機械学習等を用い、可能性がないかを探る。
不純物量の評価に関しては、使用しているハウジングがアルミで作られているため、他の素材が使えないかの検討を行う。代替が無理な場合、Ge検出器を用いてアルミに含まれる不純物量測定を行い、結晶自体の放射性不純物量を求める。そして、再結晶法や樹脂法を用いて結晶素材を純化し、新しい結晶を製作、測定する。純化方法は古くから暗黒物質探索で用いられているNaI結晶で確立されているものであり、有用な樹脂の選定がうまくいけば、低エネルギー領域での不純物量低減も期待できる。
|
次年度使用額が生じた理由 |
初年度は、東北大の設備であるGe検出器を用いての測定と解析が中心になり、他の測定に必要な支出が抑えられたため。発光量やエネルギー分解能測定のセットアップも既存の装置を一部流用することができた。一方、結晶の不純物量が多いことが明らかになったため、次年度は、ハウジングの選定や結晶の純化に注力したい。原料や樹脂等、必要な消耗品が多くなることが見込まれる。
|