研究課題/領域番号 |
22K03662
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
永井 泰樹 大阪大学, 核物理研究センター, 協同研究員 (80028240)
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研究分担者 |
牧井 宏之 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構, 原子力科学研究部門 原子力科学研究所 先端基礎研究センター, 研究職 (20425573)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 加速器中性子 / 医療用アイソトープ / 核医学診断治療 / 創薬 / 放射性同位体の国産化 / 重陽子加速器 / 個別化医療 / ベータガンマ線 |
研究実績の概要 |
放射性アイソトープ(以降RI)で標識された医薬品をがん患者に注射して患者のがん細胞に集積したRI医薬品から放出されるベータ線及びガンマ線を利用した「がん治療及び診断法」は、がん患者に対して「治療と就労の両立」を適える低侵襲医療として大きな貢献をしている。高齢化に伴い様々な種類のがんが治療対象になる時代にあって、短半減期で色々な原子番号を持つRIで適切な医薬品を大量に生成すること、同時にそれらRIが放射性医薬品としての品質を有する様にRIの分離精製技術を研究開発することが世界の核医学・創薬分野で喫緊の課題となっている。我々は患者に最適の個別化医療の推進に国産RI医薬品の創薬のためにこれらRIを製造し供給することで貢献したく、従来の医療用RI製造法とは異なる製造法を発見し、その方法で製造したRIが医薬品利用に適した品質をもつことを研究開発により実証してきた。そしてこれら成果を踏まえ、東北大の加速器中性子強度を高度化し新たな放射性医薬品の創薬を目指すプロジェクトを、東北大学、量研機構、原子力機構、住友重機械、千代田テクノルの産官学の共同で立上げた。当該プロジェクトは順調に進展し、高強度の加速器中性子を得るために必須の重陽子ビーム強度は従来の10倍を既に達成した。現在はビーム強度の更なる増強と重陽子エネルギーアップの開発を遂行中である。一方、診断と治療を融合した医療推進に向け、これまで研究開発を進めてきた診断用RIの64Cu、治療用RIの67Cuの照射試料Znからの分離精製法の装置開発及び整備も順調に進展している。実際、既に東北大学に新たに設置された当該分離精製装置を用い高品質の67Cuの分離に成功し、創薬研究者への部分供給を開始している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
RI医薬品を用い患者疾患部の診断・治療を行う内用療法は優れた低侵襲医療として重用され、最新医療では患者の特性に合わせた個別化医療推進が喫緊の課題である。そこで我々は多様なRI製造法の開発と多くの新RI医薬品の創製への貢献を本研究の目的としている。ところで、我々が2010年以来取組んでいる99Mo から得られる99mTc医薬品は、がん、心臓疾患、脳疾患等の診断に我国で年間~90万件使用されているが、我国が全輸入している99Mo供給体制が脆弱である。我々は加速器中性子を用いた革新的99Mo製造法を提案、99mTcの熱分離・精製の研究開発を行いその高品質性を実証した。本研究では我々が独自に開発した熱分離装置の論文化に向けた活動を大きく進展させた。更にこの加速器中性子利用による99Mo製造法は、がん治療・診断用の64Cu及び67Cuの大量製造法として応用できることを発見しその実証試験を成功裏に行ってきたが、本研究では、これらRIの分離精製装置開発に大きな進展が見られた。加えて神経内分泌細胞由来のがん治療用177Luの国内製造による医薬品開発につながる重陽子を直接Yb試料に照射する方法の有効性を実証する研究が実施できた。以上の成果から、申請課題に関わる研究は概ね順調と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
サイクロトロン加速器で加速される重陽子を炭素に照射して生成される加速器中性子は99Moのみならず診断治療用RIの64Cuと67Cu等の大量製造に適していることが、既存の重陽子加速器(40-50MeV 5 マイクロA)を用いた基礎研究で実証された。そこで我々は高品質の64Cuと67Cu等を大量に製造し創薬研究者に供給して国産初の診断治療用の放射性医薬品の実現に向けて稼働中の既存加速器(東北大サイクロトロン)に負重水素イオン源及び荷電ストリッパーを装備して既存の20 倍のビーム強度を持つ 重陽子加速器に性能アップするプロジェクト(DATE プロジェクト)を産官学の共同研究グループで立ち上げた。このプロジェクトは当初の目標はほぼ達成した。現在、上記RIの強度をより増強すべく重陽子エネルギー及びビーム強度の増大を既存の機器を改造することにより実現すべく検討中である。更に64Cu及び67CuをZn から分離精製する工程は自動化に向けた改良を加え、より高強度のRIを再現性良く低線量被ばく下で行えるように装置開発を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究開発が当初計画通り順調に進展しているため次年度使用額が生じた。
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