研究課題
「恒星型 (恒星スペクトル) の違いにより大気は保持されるのか、それともされないのか」という学術的問いに答えることを目的とし、数値計算、特に3次元多成分電磁流体力学 (REPPU-Planets) モデルを用いて様々な恒星環境下での惑星上層大気構造及び大気散逸機構を明らかにする。比較的低XUV環境下なHD85512系及びGJ581系に火星型惑星を配置し、REPPU-Planetsにて計算を行った。XUV放射照度やスペクトル型、更には大気密度が各イオン種の大気散逸率に顕著に影響を与えることが本計算から理解され始めた。これらの成果はJpGUや天文学会で口頭発表され、現在論文準備中である。本年度は、火星型惑星に加えて金星型惑星に関しても研究を行った。これは、比較的活発な恒星環境下では火星型惑星だと流体的散逸が卓越し、非熱的散逸の影響を評価できないためである。ハビタブルゾーンを持つM型星を周回するTOI-700 d (金星型)からの大気散逸の、XUV強度及び惑星間磁場の角度依存性について調査した。非磁化惑星では、現在太陽XUVの30倍を超えると大気は数十億年で失う一方で、赤道表面で1000 nT以上の固有磁場を持つ惑星では大気散逸を抑制し、強XUV環境下での大気保持に重要な役割を果たすことがわかった。これらの成果はすでに論文出版済みである (Nishioka et al., 2023)。本年度は更に、M型星周回地球型惑星の熱的散逸の研究を行った。前主系列M型星周回地球型惑星のH2O支配大気に1次元光化学モデルを適用したところ、効率的なH2O再生反応とO2による紫外線遮蔽によって、水の損失が抑制されることがわかった。M型星周辺のハビタブルゾーンにある地球型惑星は、これまで推定されていたよりも地表に水を保持している可能性が高いことを示唆している。これらの結果はAGUで口頭発表された。
3: やや遅れている
本年度はXUVスペクトル型に加えて、惑星サイズの大気散逸への影響についても、金星型惑星及び地球型惑星を用いて検証を実施した。数値計算を実施し、XUVと惑星固有磁場が大気進化に与える影響及び、地球型惑星の地表での水の存在量について明らかにした。一方で、比較的低XUV環境下なHD85512系及びGJ581系に関する研究に関しては、当初なら本年度末までに論文出版を予定していたが、モデルの不具合が見つかったこと、その修正に時間を要していること、更に再計算時間に数週間程度かかることが理由で、現在までに論文出版に至っていない。これらの問題に関して、解決には向かっており、現在論文の投稿準備を行っているものの、進捗状況としては「やや遅れている」とした。
次年度はまず、比較的低XUV環境下なHD85512系及びGJ581系に関する研究の論文化を優先的に進める。XUVスペクトル型の影響を単純に比較するために、HD85512系及びGJ581系に加えて太陽XUVの10倍程度においても数値計算を実施し、それらの違いまでの議論を論文に含める。その後、当初では、様々なXUVスペクトル環境下での火星型惑星の大気進化についてを調査する予定であったが、強XUV環境では火星型惑星は流体力学的散逸が卓越し、非熱的散逸の影響を正しく評価できないことがわかったため、やや惑星サイズが大きい地球サイズの惑星を用いて研究を推進する。まずは、XUV環境の違う地球型惑星の大気散逸について、XUV強度変化と恒星風の影響を数値計算を用いて調べ、論文化を目指す。更に、余裕があれば、HD85512系及びGJ581系についても検証を行い、地球型及び火星型惑星での大気散逸・大気進化への影響を明らかにし、惑星の大気保持に関しての体系的な理解を目指す。
当初予定していた旅費としては使用できたものの、昨今の情勢から海外出張費が高騰しており、今年度も1回から2回海外出張することを考えると、多めの助成金を請求したいためである。
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すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 2件、 査読あり 3件、 オープンアクセス 3件) 学会発表 (33件) (うち国際学会 18件、 招待講演 2件)
Journal of Geophysical Research: Space Physics
巻: 128 ページ: e2023JA031405
10.1029/2023JA031405
Earth, Planets and Space
巻: 75 ページ: 140
10.1186/s40623-023-01881-w
巻: 128 ページ: e2022JA031250
10.1029/2022JA031250