研究課題
木星衛星ガニメデなどの巨大氷天体の内部では,深部の岩石核の表面に高圧相の固体氷層が形成し,岩石核からの熱や物質がその上部の地下海や氷殻,さらには希薄大気へ輸送される際の重要な律速過程となる.温度圧力条件に従って多形を成す多相系高圧氷層での熱物質輸送過程を定量的に評価することは,生命材料物質の苗床である岩石層が,その進化の場である地下海や大気表層とどう繋がるかという,氷天体に特有かつ普遍的な課題への新たな知見をもたらす.それに向けて当該年度では,固体相変化を考慮した高圧氷多層系の流体計算モデルの構築と基礎計算を行った.具体的には,2つの高圧氷層が相境界面を挟み上下に成層した構造を2次元直交座標系で模擬する,固相対流の数値モデルを構築した.数多くの先行研究例がある地球マントルの660 km相転移面を考慮した数値モデルを用いてベンチマークを行い,その上でice I-III, III-V, およびV-VIの2層系モデルに対する計算が正しく行われることを確認した.高圧氷層系が持ち得るRayleigh数(105~109)と各相境界の様々なClapeyron勾配,各相間の密度差を様々に組み合わせたケーススタディを行い,流れ場の構造や,熱・物質輸送量を定量的に評価した.結果を国際学会(Japan Geoscience Union Meeting 2022)にて発表したほか,本課題を実証的に調査するための将来氷天体探査について議論する場として,2022年2月20日から22日にかけて,東北大学において惑星圏シンポジウム2023を開催した.
2: おおむね順調に進展している
申請額と支給額の差違から,当初予定していたものよりも性能を下げ安価な計算機を購入する必要が生じたが,数値モデル開発の段階では大きな影響は無く,現状では遅滞なく研究が進展している.
現状はおおむね順調に進展しているので,今後も計画通りに研究を推進していく.具体的には,ice III-V-VIのような3層系での数値実験への拡張や,固相対流系における融解水の発生の影響をモデルに組み込むことなどである.上に述べた,申請時よりも性能の低い計算機を用いている影響は,2023年度以降に多数のパラメタスタディを行う際に多少生じる可能性があるものの,計画の全体像に修正を迫るようなインパクトは見込まれない.
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