研究課題
火星衛星の公転軌道には火星外気圏大気が広がっており、火星衛星表面は火星大気によって汚染されている可能性が高い。そのため、将来日本の火星衛星サンプルリターン計画によって持ち帰ったサンプルを分析する際は、火星大気による汚染の効果を考慮に入れる必要がある。しかし、これまでの探査で火星衛星の観測機会は少なく、火星大気と火星衛星の相互作用についてはよく分かっていない。そこで、本研究は火星探査機のイオンの観測データを解析し、イオンの源である外気圏大気の数密度分布を導出する「外気圏リトリーバル手法」を開発する。これにより火星外気圏の三次元分布を作成し、火星大気が火星衛星表面へ輸送される量を明らかにする。今年度は火星探査機MAVENのイオン観測データを用い、外気圏リトリーバルのイベント解析を中心に進めた。数軌道のイオン質量分析データを詳細に解析した結果、酸素イオンの観測データから酸素原子数密度の空間分布を導出した。数値シミュレーションによって計算された酸素原子の空間分布との比較の結果、外気圏リトリーバル手法によって求めた密度分布とシミュレーション結果がよく一致することも明らかになった。さらに、火星に彗星が接近した際のデータに本手法を適用すると、酸素原始の外気圏分布が彗星接近の前後で大きく変動することも観測された。これは、彗星の大気成分が火星に輸送された可能性を示唆する。ただし、同時期に火星に到来したCME(強烈な太陽風イベント)や火星地上で発生した砂嵐が火星の外気圏に影響を及ぼしている可能性もあるため、今後さらなる解析が必要である。
2: おおむね順調に進展している
今年度はMAVEN搭載のイオン質量分析器観測データのイベント解析を中心に進め、外気圏リトリーバル手法を構築することができた。また、得られた成果は国内外の学会にて発表を行った。
現在、外気圏リトリーバルのイベント解析結果を論文としてまとめており、間も無く国際学術雑誌に投稿予定である。今後はこの手法を複数年にわたるMAVENの観測データに適用し、火星の外気圏分布の時間変化を統計的に調べる予定である。
国際学会への現地参加を見送っていたため、旅費が大幅に余った。次年度は複数の国際学会に現地参加予定であり、そのための旅費として用いる予定である。
すべて 2023 2022
すべて 雑誌論文 (4件) (うち国際共著 3件、 査読あり 4件、 オープンアクセス 4件) 学会発表 (4件) (うち国際学会 3件、 招待講演 1件)
Nature Communications
巻: 13 ページ: -
10.1038/s41467-022-34224-6
10.1038/s41467-022-35061-3
The Planetary Science Journal
巻: 3 ページ: -
10.3847/PSJ/ac84d1
The Astrophysical Journal
巻: 934 ページ: -
10.3847/1538-4357/ac7d4f