研究課題
1. 冬期の一発雷を研究する過程で,近年,冬期の雷日数が増加傾向にあるが,その学術的な研究が行われていないことを知り,当初の研究計画にはない雷日数の経年変化の研究を行った.1953-1964年に気象庁が全国1300地点の有人観測から求めた雷日数分布の精度確認を行い,気象官署で観測された信頼性の高い雷日数でキャリブレーションを行えば,充分な精度を確保できることを確認した.そして,近年(2010-2019年)の電波観測で得られた雷日数と比較することで,60年間の雷日数の変動を明らかにした.気象データの解析から,12月の冬期雷の変動と不安定な冬型の日数の変動の相関が非常に高いことが示され,他の季節でも雷日数が増加した領域には特徴的な地理的分布が認められた.その成果を国際学術雑誌に投稿した.2. 昨年の一発雷の気候学的研究を拡張し,積乱雲活動に伴い最初に発生する第1落雷の特徴を明らかにした.第1落雷は正極性落雷の占める割合が40%と非常に高く(通常落雷は10%),多重雷の占める割合が数%と非常に小さいこと(通常落雷は30%)を明らかにした.一方,夏期においては,一発雷や第1落雷と通常落雷のピーク電流には有意な差はないことから,「一発雷=高エネルギー落雷」という認識は正しくないことも分かった.これらの成果を国際学術雑誌に投稿した.この2つの研究は,当初の計画にはないが,長期的な視点からは雷の本質を知る有用な情報を与えてくれると考えられる.
4: 遅れている
遅延は,当初の計画にはない2つの研究に時間を費やしたことによる.1. 過去60年間の落雷日数のメソスケール分布変動に関わる研究において,60年前のデータの精度確認に予想以上の時間が掛かった.更に,その成果を,国内邦文雑誌と国際学術雑誌に投稿を行ったため,本来の研究に時間を確保できなかった.2. 冬期の一発雷の解析に,気象衛星ひまわりの2.5分毎の赤外データを加えるために,その解読・解析プログラムを作成するために,時間を要した.
当初の計画にない研究を行ったため,約1年の遅延が生じており,研究期間の延長を申請する予定である.これまでの研究から,2021-20013年夏期と冬期の一発雷と第1落雷のリストは作成されているので,それらの落雷をもたらした積乱雲に構造と発達過程を気象庁レーダ,X-rain偏波レーダおよび気象衛星ひまわりデータを用いて,高エネルギー落雷の解析に着手する予定である.また,研究対象をデータが豊富にある国内の落雷に留めるべきか,全球規模の落雷へ発展させるべきかは,2024年度の研究の結果を基に判断する予定である.
今年度予算を余り使わなかった理由は,1)計画にはなく,予算を余り必要としない研究に集中したこと,2)これまでの研究をまとめ論文投稿を行ったためである.2024年度は,計画に沿った研究に着手するために,解析に必要な計算機とデータの購入を行う事になる.また,投稿中の論文が受理されればその投稿料を支払うためにも予算が使われる.また,研究期間を1年延長刷るつもりであるので,残額は2年間の出張にも利用する.
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Earth and Planetary Physics.
巻: 8(2) ページ: 423–435
10.26464/epp2024009