研究課題/領域番号 |
22K03720
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
川野 哲也 九州大学, 理学研究院, 助教 (30291511)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 線状降水帯 / バック・ビルディング / 豪雨 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は,水平解像度1km以下の超高解像度数値シミュレーションを実施し,豪雨をもたらす線状降水帯,その中でも特に「多重バック・ビルディング型」の線状降水帯の構造および発生・発達過程を解明することである。初年度に当たる令和4年度は主に以下の2つのアプローチで研究を行った。 1)過去16年間の気象庁解析雨量をもとに,大雨をもたらすメソ対流システムを客観的に抽出し,気象庁レーダーからそれらメソ対流システムの形態分類を行った。対流システムの移動方向に対して対流域と層状域との相対的な位置関係によって分類を行った。その結果,大雨をもたらすメソ対流システムの中には,初め単一の線状対流域を持ち,時間経過とともに複数の線状対流域を伴うシステムが多数存在していることが明らかになった。 2)数値シミュレーションの再現性を高めるためのキーポイントの1つは,適切な雲微物理スキームを選択することである。本研究代表者らは,梅雨期の線状降水帯の再現性を高めるためには,降水粒子に雹カテゴリーを含むことと,降水粒子の混合比だけでなく数濃度も予報変数とする2モーメントスキームを用いることが重要であることを指摘している。豪雨をもたらす降水システム内に雹が形成されることの重要性を明らかにするためには,雲内の雲微物理直接観測を行う必要がある。令和4年梅雨期に気象庁が主導する線状降水帯特別観測プロジェクトが実施され,本研究代表者は線状降水帯の雲微物理直接観測チームに扞格した。対流システム内に飛揚された粒子撮像ゾンデは,凍結高度すぐ上の層に雹を含む凍結粒子を多数観測した。このことは,梅雨期の豪雨をもたらす対流システム内の雹形成の重要性を示唆している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
全体としては順調に進んでいる。過去16年分の気象庁解析雨量およびレーダーデータより,複数の線状対流域を持つメソ対流システムを抽出した。これにより,令和4年度に目標としていた多重バック・ビルディング型の線状降水帯事例の抽出はおおよそ完了したと考えている。 しかしながら若干の遅れもある。今年度後半に予定としていた超高解像度数値シミュレーションの実施はできなかった。これは上述の事例抽出に注力したためである。
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今後の研究の推進方策 |
客観解析データ・再解析データを用いて,典型的な多重バック・ビルディング型の線状降水帯の発生・発達の環境場を特定するとともに,それらの事例の超高解像度数値シミュレーションを実施し,システムの内部構造および発生・発達メカニズムを詳しく調査する。
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次年度使用額が生じた理由 |
計画書には初年度に大容量ストレージ購入経費を計上していたが,今年度は研究室の現有ストレージを利用してデータ保存を行った。次年度以降に超高解像度数値シミュレーションを実施する予定であり,そのデータ保存用の大容量ストレージを購入予定である。 また,研究概要のところで述べたように,今年度は多重バック・ビルディング型の線状降水帯事例の抽出に注力し,超高解像度数値シミュレーションを実施しなかったため,計算機使用料は発生しなかった。
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