研究課題/領域番号 |
22K03725
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研究機関 | 気象庁気象研究所 |
研究代表者 |
和田 章義 気象庁気象研究所, 台風・災害気象研究部, 室長 (20354475)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | 台風 / 海洋貯熱量 / アンサンブルシミュレーション / 気象衛星ひまわり / 大気波浪海洋結合モデル |
研究実績の概要 |
海水温26℃以上の海洋表層における熱容量(海洋貯熱量)のデータセットを複数の海洋解析データセットを用いて作成した。またWada(2016)の手法を改良し、帯状平均地表面気温の緯度方向の勾配が大きくなる地点での気温と各格子点での露点温度の高い温度を参照温度とする改良海洋貯熱量データセットを作成した。台風直下の海洋貯熱量は赤道から北緯20度、東経120度から160度の海域において2016年以降、衛星データとドボラック解析により得られた強度インデックス(CI数)は強くなっていないにも関わらず、複数データセットにて相対的に高くなっている傾向が見られた。この傾向は改良海洋貯熱量データセットを用いた場合には見られなかった。 全球大気アンサンブルデータから作成された摂動を加えた初期値及び2つの海洋初期値(気候値及び実況値)、非静力学大気モデル及びその大気波浪海洋結合モデルを用いて、2019年台風第19号についてアンサンブルシミュレーションを実施した。シミュレーション結果について衛星シミュレーターを用いて気象衛星ひまわりのバンド8に相当する輝度温度に変換し、衛星観測値と比較した。また両者を組み合わせて経験的直交関数解析を実施し、台風強化にかかわる衛星観測輝度パターンを得た。台風の強度変化は海洋環境場に関わらずモデルで再現できる一方、強度を現実的に再現するためには海水温を現実的な値とする必要があることを明らかにし、査読論文として発表した。 太平洋高気圧縁辺とモンスーンジャイアの合流地点で発生した2022年台風第5号について、2022年7月21日00UTC初期時刻として9日間の数値シミュレーションを気象庁現業非静力学気象モデルASUCAの海洋結合版、非静力学大気モデル及びその大気波浪海洋結合モデルを用いて実施した。どのモデルでも2022年台風第5号の先駆擾乱が再現できることを確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
海水温26℃以上の海洋表層における熱容量(海洋貯熱量)のデータセットをFORA及びJCOPEの海洋解析データセットを用いて作成した。またWada(2016)の手法を改良し、帯状平均地表面気温の緯度方向の勾配が大きくなる地点での気温と各格子点での露点温度の高い温度を参照温度とする改良海洋貯熱量データセットをERA5,JRA55に加えてJRA3Qを用いてそれぞれ作成した。この点で当初の計画以上の進展が見られた。 海洋貯熱量の時系列解析に関しては、研究実績の概要で示した赤道から北緯20度、東経120度から160度の海域だけでなく、偏西風ジェット域における台風の温帯低気圧化の研究を意識して、北緯20度以北の海域についても実施した。ERA5,JRA55に加えてJRA3Qを用いた低気圧位相空間解析プログラムも既に作成しており、この点でも当初の計画以上の進展が見られた。 一方でアンサンブルシミュレーション実験については、電気代の高騰及び節電の要請のため、新規の数値実験を実施せず、すでに実行していた2019年台風第19号のデータ解析を中心に、足りない計算のみを実行した。衛星シミュレータの提供を研究協力者から受けたため、太平洋高気圧の南縁を西北西進しつつ急発達した台風の強化過程の解明を中心に研究を実施し、短期間で査読論文発表に至った。 節電の要請が緩くなったことから、2022年の台風に関する数値シミュレーションに着手するようになった。2022年台風第5号の発生に関しては、太平洋高気圧周縁部の偏東風とモンスーンジャイアの活動が密接に関連していることを、大気再解析データを用いて既に解析を終えている。研究実績の概要には記さなかったものの、日本に上陸した2022年台風第14号についても初期解析は終了している。よって次年度に実施する数値シミュレーション実験を用いた解析に関する着眼点の整理は終えている。
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今後の研究の推進方策 |
熱帯海域における台風強度と海洋貯熱量の関係に関しては北半球夏季季節内変動(BSISO)との関連も含めて研究を行う。BSISOデータについては、当初ハワイ大のデータを使用することを想定していたものの、更新が止まったことから、APEC作成のデータセットも使用する。BSISOの8つのフェーズにおいて、海面水温、海洋貯熱量、海水温26℃深度は変動することは確認できている。大気に対する海洋の応答、もしくは海洋から大気への影響に関して今後整理する。 中緯度偏西風帯と台風の温帯低気圧化の相互作用は台風の大きさにより異なり、また海洋応答も異なることを確認している。単なる海洋応答か、大気へのフィードバックはあるのか、について整理する。低気圧位相空間解析と台風ベストトラックデータを用いて、台風のサイズ別にコンポジット解析を実施し、偏西風ジェットや改良海洋貯熱量分布のサイズによる違いを確認する必要がある。 数値シミュレーション研究に関しては、気象庁現業非静力学気象モデルASUCAの海洋結合版と非静力学大気波浪海洋結合モデルによる数値計算を継続して実施する。2022年台風第8号の発生プロセスのモデルによる違い、及び2022年台風第14号の発達期、成熟期、上陸直前における海洋の役割に着目した研究を実施する。また初期値の違いが台風第14号の経路及び上陸時の降水分布に与える影響を調査するため、台風中心位置をずらしたアンサンブル実験を実施する。 大気・海洋データセットに関しては継続して収集する。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルスへの対処のため、当初予定していた出張を取りやめた。また査読論文出版費用が招待論文であったため、当初予定より減額された。一方で電子計算機価格は高騰していることから、次年度購入予定のノートPCの予算を増額する。また次年度は数値計算が増えることが想定されるので、結果を格納するディスクの容量及び個数を増量する。
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