研究課題
千島海溝を形成するプレート沈み込み帯やその周辺では,周期的にマグニチュード8クラスのプレート間巨大地震やM9クラスの連動型超巨大地震が周期的に発生してきたことが知られている.本研究では,北海道東部の太平洋沿岸に面する海跡湖の一つである春採湖において堆積物コアを採取し,過去の地震津波によって本地域の海跡湖の自然環境がどのような影響を受けたのか,について検討を行っている.堆積物コアは主に年縞を伴う珪藻質シルト層で構成されており,4層の完新世テフラと3層の海成イベント砂層(=津波堆積物)の挟在が確認された.さらに先行研究との対比により,これらは下位から,12-13世紀に発生したGTS2,17世紀に発生したGTS1ならびに1843年十勝沖地震(天保地震)の津波堆積物と判断された.特にGTS2とGTS1は,地震調査研究推進本部により超巨大地震(17世紀型)によって発生した津波堆積物であったと推定されており,その層位付近では大規模な地形改変を伴うことが知られてきた.これまでの堆積物コアの珪藻分析の結果,GTS2の堆積後では,優先している海水種が上位に向かうにつれ徐々に減少することが判明した.この変化は,津波の侵食作用によって千代ノ浦のバリアー砂堆が一時的に消失し,その後,徐々に砂堆が回復したことを暗示している.GTS1の堆積前には淡水種の産出割合が徐々に大きくなるが,GTS1堆積後では淡水種が優先することが判明した.GTS1堆積後の淡水化は,このときの地震津波によってバリアー砂堆の隆起が起こっていたことを示唆している.以上のことから,同じ千島海溝で発生した超巨大地震であっても,その時に起こる環境変化は一様ではないと考えている.一方,1843年十勝沖地震のマグニチュードはMw8.2と推定されており,この規模の地震津波では大規模な地形改変を伴わないことが明らかになった.
2: おおむね順調に進展している
現在までところ,共同研究者の献身的な協力もあって,研究は順調に進行していると考えている.また,この科研費に関わる研究成果発表やアウトリーチも,予定通り実施できていると考えている.
春採湖コアの解析については,2年後の論文化に向けて研究成果の取りまとめ作業を進めている.一方,超巨大地震(17世紀型)の発生時には,オホーツク海側に分布する野付半島と風蓮湖の分岐砂嘴の形状が大きく変化したことが知られており,現在,地形解析を進めている.また,過去に春採湖で採取したコア試料を用いて,12-13世紀に発生したGTS2や17世紀に発生したGTS 1よりも古い津波堆積物でも同様の環境変化が認められないかについて,検討を進めている.但し,現下の物価の急激な高騰によって,当初予定していた旅費や消耗品の購入費用の使用も難しくなってきているが,残り2年間も研究予算内での最大限の成果をあげることを目指したいと考えている.
現下の物価の急激な高騰によって,当初予定していた旅費や消耗品の購入費用の使用は難しくなっているが,残り2年間も研究予算の枠内での最大限の成果をあげることを目標にしたいと考えている.
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