研究実績の概要 |
本課題第2年度である23年度は、課題代表者が開発した新しいトモグラフィー手法を用いて、北緯30度以北の北半球全域下の詳細なP波速度構造推定を行った(Toyokuni & Zhao, 2023, PEPS)。この手法は、対象となる大領域を複数の小領域に分け、それぞれの小領域について詳細なトモグラフィーを実行した後、各グリッドの周囲を通過する波線数を重みとした加重平均を取ることで、大領域下の高分解能な地下構造モデルを得る手法である。得られたモデルによって、ロシア下に沈み込むイザナギスラブの詳細な形状を初めて明らかになったうえ、カナダとグリーンランドの分裂メカニズムを初めて説明することができるなど、地球科学的に重要な知見が得られた。
また従来の等方的な地震波速度だけではなく、地震波速度異方性も考慮したグローバルトモグラフィー手法の開発に成功した(Takada, Toyokuni & Zhao, 2023, 日本地震学会秋季大会)。地震波速度異方性は、地下の同じ場所における地震波速度が、地震波の伝播方向によって変わる現象であり、特にマントル内においては、マントルの大規模な流れを反映した結晶の選択配向によって形成される。したがって地震波異方性構造を明らかにすることで、マントル内の流れ場などの動的状態を推定できる。
従来のグローバルトモグラフィー手法では、対象地域下を詳細に調べることができるものはすべて等方性地震波速度のみを扱っていた。今回、地震波速度異方性を扱うことができるようプログラムの拡張開発を行った。テスト地域として、地下構造がよく知られている日本とその周辺地域下を選び、核-マントル境界から地殻に至るまでの方位異方性構造を初めて明らかにすることができた。この成果は24年6月に国際誌に投稿予定である。
|