研究課題/領域番号 |
22K03767
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研究機関 | 国立研究開発法人海洋研究開発機構 |
研究代表者 |
宮崎 隆 国立研究開発法人海洋研究開発機構, 海域地震火山部門(火山・地球内部研究センター), 主任研究員 (80371722)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | バリウム安定同位体 / 海洋島火山 / 沈み込み / マントル / 物質循環 |
研究実績の概要 |
海洋島火山岩のBa安定同位体比を用いて、沈み込みスラブ物質の行方を定量的にトレースできるか検証を行うため、昨年度に第1ターゲットとして選択したライババエ島試料のBa安定同位体比分析を進めた。 初めに、Sr,Nd,Pb同位体比分析などで変質成分除去を目的として実施される酸溶液によるリーチング処理が、Ba安定同位体比分析におよぼす影響を明らかにするため、リーチング処理前後の粉末試料をセットでBa安定同位体比を分析し比較を行った。その結果、各試料セットが示すBa安定同位体比変化幅はすべてのセットで共通に一定ではなく、さらにセットによりリーチング処理後のBa安定同位体比が低くなる場合と高くなる場合があることが判明した。この結果に加え、微量元素組成データから推定した変質度数とBa安定同位体比の変化幅に相関が認められないことから、Ba安定同位体比分析において、リーチング処理は変質成分除去方法として有効ではないと判断した。リーチング処理過程でBa安定同位体比が変化する要因はまだ明らかでは無いが、リーチング処理過程での同位体分別作用や本質成分の選択的溶解などの影響が推定される。したがって、本研究では、リーチング処理を行わない粉末試料から得られたBa安定同位体比を議論の対象とすることにした。 ライババエ島試料分析がほぼ進んできたため、マンガイア島を第2ターゲットとして試料選択を進めている。また、昨年度行った文献調査の結果、スラブ物質混入量の変化に起因するBa安定同位体比の差異は非常に僅かであることが予想されたため、現行精度でその差異を検出するためには分析データを統計的に検定する必要があると判断した。そこで、伝統的統計検定法を取り入れたBa安定同位体比データ解析方法の確立をBa安定同位体比分析と並行して行った。本方法はMiyazaki et al. (2023)の一部としてその内容を公表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度に第1ターゲットとして選択したライババエ島試料のBa安定同位体比分析を順調に進めることができた。さらに同時に、Sr,Nd,Pb同位体比分析などで採用されている粉末試料のリーチング処理法はBa安定同位体比分析に用いることができないことを明らかにし、今後のBa同位体比分析では、リーチング処理を行わない粉末試料のBa安定同位体比データを用いて議論を進めるという方針を確定することができた。 ライババエ島海洋島玄武岩の既存のSr,Nd,Pb,Hf同位体比データから、ライババエ島には2つの異なる起源マントルから由来したマグマが存在したことが知られている。本研究によりそれぞれのマグマのBa安定同位体比特徴が徐々に明らかになりつつある。また、ライババエ島とは別の特徴を持つ起源マントルから由来したマグマから形成したと考えられている、マンガイア島についても、Ba安定同位体比分析試料の選択を進めることができた。 昨年度の文献調査の結果、スラブ物質の影響の強弱により現れるBa安定同位体比の差異は、当初想定よりも小さい可能性があることが分かり、昨年度からBa安定同位体比分析と並行して、分析精度向上のため分析方法のブラッシュアップを続けてきた。本年度は特に、同位体比の差異を統計的検定に基づいて検出および判別するための手法を、伝統的な検定方法であるウェルチ検定やダネット検定を用いて確立することができた。この手法の有効性は、本研究以外のBa安定同位体比データを用いて実証することができ、さらに論文の一部として公表することができた。今後本研究のBa安定同位体比データ解析にも本手法を用いることが可能となった。 スラブ物質自体が持つBa安定同位体比の範囲を決定についても、文献調査と並行して、別に実施している関連研究において、本研究に有効な参考データとなる海底堆積物のBa安定同位体比データが蓄積されつつある。
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今後の研究の推進方策 |
今年度に引き続き、マンガイア島試料のBa安定同位体分析を進める。また並行して、マントル端成分であるEM-ⅠおよびEM-Ⅱの特徴を持つピトケアン島およびサモア島の試料を第3および第4ターゲットとして選択し、Ba安定同位体比分析を進める。なお、Ba安定同位体比分析を行う試料はリーチング処理を行わない粉末試料のみとする。 ある程度、分析データが得られた段階で、ライババエ島試料、マンガイア島試料、ピトケアン島試料、サモア島試料から得られたBa安定同位体比について比較を開始し、4島のBa安定同位体比の特徴と4島間のBa安定同位体比の差異を明らかにする。なおBa安定同位体比データの解析には、今年度確立した統計的検定手法を活用する。同時に本手法のブラッシュアップも行う。 これら4島の海洋島玄武岩マグマを形成した起源マントルは、既存のSr,Nd,Pb,Hf同位体比データからDM, HIMU, EM-ⅠおよびEM-Ⅱのマントル端成分の特徴を持つことが知られており、それぞれの起源マントルに混入した沈み込みスラブ由来物質について定量的に詳しく議論されている。本研究で得られたBa安定同位体比データが示す特徴が、これらの議論との整合性を明らかにする。 もし議論と整合する結果が得られる場合は、文献調査や本研究の分析により推定された海底堆積物や変質海洋地殻などの沈み込みスラブ物質自体が持つBa安定同位体比のデータを組み入れて、沈み込みスラブ物質混入量の定量をさらに試みる。一方整合しない結果が得られる場合は、その要因について既存元素組成およびSr,Nd,Pb,Hf等の同位体比データを用いて解明を試みる。 本研究で得られた成果は学会および論文で発表を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由)今年度より開始した表面電離型質量分析計でのBa安定同位体比測定は、次年度も引き続き実施する予定とし、そのために必要なフィラメント材料などの購入を次年度に見送ったため。また、次年度も引き続きBa安定同位体比分析(前処理および表面電離型質量分析計での測定)を行う予定であり、その分の人件費を次年度に引き継いだため。 (使用計画)Ba安定同位体比分析を引き続き進めるため、各種高純度試薬、フィラメント材料などの実験消耗品の購入と、引き続き臨時研究補助員の雇用を行う。また、成果発表のため、学会参加費用および論文費用を計画している。
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