研究課題/領域番号 |
22K03772
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
亀 伸樹 東京大学, 地震研究所, 准教授 (90304724)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | P波前地震重力変化信号 / 地震 / 重力変化 / P波 / 地震早期検知 |
研究実績の概要 |
地震の動的破壊は、断層周辺と地震波が伝播する場所の両方に質量の変化をもたらします。これにより生じる重力ベクトルの変化はほぼ瞬時に伝わるため、P波より早く地震観測点に到達します。このP波の前に到達する重力ベクトル信号(P波前重力信号)は幾つかの大地震で検出されてきましたが、観測記録の垂直成分に限られていました。これは水平記録の雑音レベルが高いためです。本研究は、2011年東北地方太平洋沖地震(Mw 9.1)に対するHi-net高密度傾斜計アレイデータを解析し、水平成分のP波前重力信号を探しました。現実的な地球構造モデルに対して計算された3成分合成波形の信号強度の分布に基づいて水平成分記録をスタッキングし、雑音レベルを明瞭に超えた水平信号を特定しました。さらに、F-net広帯域地震計アレイデータの垂直信号と組合せ、波形逆解析から震源パラメータを推定し、地震の傾斜角とマグニチュードをそれぞれ11.5ー15.3°とMw 8.75ー8.92の範囲に制約しました。従来の「地震波形」の解析においては、浅い地震に対して傾斜角とマグニチュードは二律背反の関係にあり両者を同時に決定できませんでした。この研究は、P波前重力信号の3成分を解析することで、この二律背反問題を解決できることを示しました。これを受けて、本研究では、この新たに見いだされた信号特性を理解することを目指して、理論波形合成計算コードを用いた数値実験を行いました。この数値実験には、従来の長周期地震波形合成計算と同じ弾性重力完全結合の方程式を用いて現実的な地球構造におけるP波前重力信号の波形合成を可能にする用いる計算コードを用いました。これは、これまでに提案されてきた計算法と異なり、一切の近似計算をしていないことが特徴であり、また現実的な時間で実用制度の波形を得ることができます。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
数値実験には Zhang et al. (2020)と Wang et al. (2017)によって開発された計算コードQSSPPEGS_potential_Code を用いました。この計算コードは、従来の長周期地震波形合成計算と同じ弾性重力完全結合の方程式を用いて現実的な地球構造におけるP波前重力信号の波形合成が可能になります。ここでは、2011年 Mw 9.1 東北沖地震の傾斜角を系統的に変化させた模擬P波前重力信号波形を合成して、振幅の傾斜角依存性を調べました。点震源を仮定し、Mw = 9.1 に固定し、δ = 10°, 15°, 20°, 25°, 30° と変化させました。観測点を神岡として、地動加速度(d2/dt2)u 、重力場の変化 δg のそれぞれの成分を合成し、これらを用いて観測されるP波前重力信号s = (d2/dt2)u - δg を求めました。
結果、(d2/dt2)u と δg の水平成分は共に sin(2δ) の依存性を示す一方で、信号出力 s = (d2/dt2)u - δg には sin(2δ) とは異なる傾斜角依存性がみられました。計算前の想定通りに (d2/dt2)u と δg は M0 sin(2δ) で震源励起され、これらの差をとると新しい傾斜角依存性が現れる結果となりました。想定とは異なり部分もあり、 (d2/dt2)u と δg の垂直成分の振幅は共に、sin(2δ) の依存性を示しませんでした。逆に、s = (d2/dt2)u - δg は sin(2δ) の依存性を示す結果となりました。このP波前重力信号 s の δ 依存性は水平成分と垂直成分ともに木村(2020)の実データ解析結果と調和的です。しかし、数値実験の垂直成分の結果は想定しておらず、今後、地球自由振動の理論との整合性との検討が必要です。
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今後の研究の推進方策 |
地震震源情報を早期に得る新たな観測窓として注目されるP波前地震重力変化は、現在、重力計や地震計で検出されているが、これらの計器では、観測点での重力の変化と、それによる観測点の加速度の和を測っており、P波到着の少し前までは、両者がほぼキャンセルしあって信号が微弱である。しかし地震の即時重力変化により引き起こされる「P波前弾性歪み」は、このようなキャンセルを受けず、これは地震研が神岡に設置したレーザー歪計で観測できる可能性がある。本研究では、今後、期待される信号強度を理論的に評価して、歪み計による検出可能性を調べる。
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次年度使用額が生じた理由 |
2022年12月に研究成果発表の国外出張を予定していたが、新型コロナウイルスの影響が続くなか現地・オンラインのハイブリッド開催となり、感染への恐れから現地参加を取りやめ、これにより次年度使用額が生じた。本年度は、成果発表のための国外出張を行う。また、国際的な半導体不足で極端に品薄となり想定する性能の計算機の購入を延期した。これについても購入に進む。
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