研究課題/領域番号 |
22K03774
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
武尾 実 東京大学, 地震研究所, 名誉教授 (00197279)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 火山性微動 / 長周期地震 / 相図解析 |
研究実績の概要 |
マグマ噴火に先行するマグマ湧出期やマグマ噴火の時期に発生する火山性微動や長周期地震は,マグマ噴火の発生機構を解明するための重要な情報を提供する.本研究では,複数の火山でこの時期に観測された火口近傍での多様な振動特性を示すデータに基づき,マグマ噴火の多様な発生機構に迫ることを目指す.2022年度は,先ず,2004年浅間山噴火に先行する長周期微動・長周期地震に対する予察的な数理モデルであるコントロール・バルブの検討を進め,日本学士院紀要の論文の中にこの成果をまとめた.この論文は,浅間山の深さ約10kmより浅い領域のマグマ供給系を地震波速度構造と地殻変動及び火山性地震の活動に基づいて明らかにした研究成果をレビューすると同時に,2004年浅間山噴火以降の2017年までの長期にわたる観測データ及び解析結果を基に,噴火活動とその前駆現象との関連を解明した.この中で,コントロール・バルブをベースとした数理モデルにより,2004年噴火に先行して観測された長周期微動・長周期地震がマグマ噴火に前駆する火道閉塞のシグナルであった可能性を示した.さらに,2021年の論文(Takeo, 2021)で構築した粘性流体の流動に起因する数理モデルの挙動を,流体流路の圧力-断面積の関係構成式を幅広く変化させて,励起される振動の相図の特徴を整理した.その結果,これまでは流体の移動が制限された条件下で発生すると考えられていたゆっくりと減衰する調和型の地震動(N型地震と呼ばれる)が,流体流動の数理モデルにより実現できることを明らかにした.本研究により,同様の振動パターンが全く異なる物理的条件の下でも励起されることが明らかになり,N型地震の見方について,新たな視点を付け加えることが出来た.この成果については,2023年春の地球惑星科学連合学会の大会で報告する予定である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2022年度は,新燃岳の調和型微動・長周期地震および浅間山の長周期微動・長周期地震の観測データを再現する数理モデルの解明を目指して,まず,新燃岳の調和型微動を再現した粘性流体の流動に起因する数理モデルの挙動の整理を行った.具体的には,流体流路の圧力-断面積の関係構成式を幅広く変化させて,励起される振動の相図の特徴を整理し,この数理モデルによってどの様な振動パターンが再現できるかを調査した.その結果,ゆっくりと減衰する調和型の地震動(N型地震と呼ばれる)も流体流動の数理モデルにより実現できることを明らかにした.従来,N型地震の励起メカニズムとしては,孤立したクラック内に流体が閉じ込められている状況下で何らかの衝撃によりクラック境界に発生する境界波によるとする励起モデルが,有力なものとして提唱されている.このモデルでは,クラック内部の流体は他とは繋がっておらず閉じ込められている必要があり,N型地震の発生は火道内部の閉塞の進行を示唆するものとみられていた.しかし,本研究により,同様の振動パターンが,上記のモデルと真逆の流体流動の条件下でも発生することが明らかになり,N型地震の見方について,新たな視点を付け加えることが出来た.この成果については,2023年春の地球惑星科学連合学会の大会で報告する予定である.また,振動パターンを整理する中で,新燃岳の調和型微動について,これまで解析してきた微動以外の微動に関しても,相図解析法を適用した解析を進めた.さらに,2017年10月から始まった新燃岳の噴火活動,及び,浅間山の2015年6月の微噴火以降の活動について,火口近傍の広帯域地震記録を精査して,幾つかの特徴的な火山性微動・長周期地震を見いだした.これらの新たな観測データについても,今後,解析対象に加えて,多様な火山性微動・長周期地震の解明を進める.
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今後の研究の推進方策 |
2023年度は,先ず,粘性流体の流動数理モデルについて,2022年度に整理した振動パターンをベースにして,これまで解析されていない新燃岳の2011年噴火時の調和型微動の相図解析に取り組む.また,2022年度の研究で新たに得られたN型地震に関する知見に基づき,これまで浅間山や他の火山で観測されてきたN型地震の再検証を実施する.これは,当初の研究計画には組み込まれていない課題であるが,マグマ噴火に関連する多様な振動特性を持つ火山性微動・長周期地震の発生メカニズムの解明を通じて,マグマ噴火の発生機構に関する知見を得ることを目指している本研究の目的と整合する課題である.また,2023年度は2022年度の日本学士院紀要にまとめた浅間山の長周期微動・地震を再現するコントロール・バルブモデルと流体流動に起因する数理モデルとの比較・検証を進め,それぞれの数理モデルから得られる振動パターンの相図の特徴を整理し,観測データの相図解析を効率よく進めることが出来る環境を整備する.さらに,継続時間が短い西之島の長周期相似地震についての解析にも着手する.西之島のマグマ湧出期の長周期相似地震群の発生は,2011年新燃岳噴火の際のマグマ湧出期の長周期相似地震の活動と極めて類似しているが,新燃岳噴火の際は,この時期に調和型微動も並行して発生している.しかし,西之島の場合は調和型微動の発生も,他のタイプの微動もマグマ湧出期には発生していない.この違いが何に起因しているかを明らかにすることを念頭に置いて,両者のマグマ湧出期における長周期相似地震の解析を進める.さらに,2022年度に収集した新たな長周期微動・地震の観測データの整理も進め,次年度以降に解析する事が出来るように準備をすすめる.
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次年度使用額が生じた理由 |
2022年度はコロナ禍の影響で,海外の国際学会及び国内の関連学会への現地参加が困難であった.そのため,旅費の支出が少なかった.2023年度以降,2022年度の研究成果を踏まえて,ゆっくりと減衰する調和型の地震動も新たに解析対象に加えて研究を進める事とした.さらに,2023年度以降には観測データの定量的解析を進める事が予定されている.そこで,これらの観測データの解析,数値計算の実施のためには,計算機の能力を高めるための物品(増設メモリ,ハードディスク等)やデータ解析用ソフト等が新たに必要となる.そのため必要となる研究資源を調達するため,2022年度の物品費,人件費・謝金の支出を節約して,2023年度以降に必要となる経費に充てる事とした.
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