研究課題
本研究課題は活動的火山において広帯域の重力観測を実施し、火山内部のマグマ質量移動プロセスを解明することを目標としている。本課題の2年度目に当たる2023年度は以下の研究を実施した。(1) 重力計の検定観測: 相対重力計で得られる重力値の系統誤差や器差を低減するため、北海道から沖縄に至る長距離測線で相対重力計の検定観測を実施した。その結果、複数の相対重力計のスケールファクターを高精度に決定したほか、相対重力計のスケールファクターが読取値に対して線形的に変化していることを示した。(2) 火山での重力連続観測: 火山地域における短い時間スケールの重力変化を捉えるため、阿蘇・桜島の各火山で相対重力の連続観測を継続した。その結果、阿蘇火山では噴火活動に伴って重力値がステップ的に変化する様子を確認した。(3) 京大での重力連続観測: 各火山における新たな連続観測点の増設を念頭に、京都大学で相対重力連続観測を試験的に実施した。その結果、2022年1月15日トンガ火山噴火の気圧変動に伴って約1 microGal未満の重力変化を検出することに成功し、この重力変化は大気重力波の理論によって定量的に再現できることを示した。(4) キャンペーン重力測定: 火山地域における質量時空間変動を把握するため、箱根・阿蘇・桜島の各火山でキャンペーン相対重力測定を実施した。特に、桜島火山では重力変化の空間分布を密に捉えるために、2023年秋の重力測定において測定点を増設した。その結果、桜島中央部では最大+4.3 microGal/yrの重力増加が継続しており、この重力増加は桜島中央部直下の海抜下2.5 kmにおける+6 * 10^9 kg/yrの質量増加で説明可能であることが分かった。この質量増加は、火道内マグマ対流に伴う脱ガスマグマの密度増加を反映していると考えられる。
2: おおむね順調に進展している
本研究課題は申請時点において、[1]火山における広帯域重力観測、[2]重力計検定および重力データ補正、[3]質量変動のモデル化、および[4]質量変動モデルの一般性検証を実施することとしていた。また、これらの研究に関連し、重力計1台のオーバーホールを実施する予定としていた。本課題のこれまでの研究期間(2022年度~2023年度)において、[1]については複数の火山で広帯域重力観測を実施済みであり、特に桜島火山では重力時空間変化を詳細に捉えられるようになってきた。[2]については日本縦断測線を用いた重力計の検定や、陸水変動に伴う重力変化の補正を実施し、この研究の一部は論文の形で報告済みである。[3]については桜島火山で既に質量変動モデルを構築済みであり、またトンガ火山噴火に伴う重力変化についても大気重力波モデルでよく説明できることを確認済みである。さらに、2023年度には本研究の予算を用いてラコスト型相対重力計G892のオーバーホールを実施し、2023年秋の桜島キャンペーン重力測定においてG892重力計が問題なく機能していることを確認した。このように、本課題は[1]~[3]の点において計画通り進展しているものの、[4]についてはこれまでの研究期間で十分な検討がなされていない。[4]については各火山での重力観測を今後も継続し、それらのデータを比較することで実現できると期待される。以上のことから、本研究課題の現時点での自己評価を「おおむね順調に進展している」とした。
本研究課題では、今後も各火山での広帯域重力観測を継続した上で、観測データの解析・モデル化や統合的な解釈を行う。具体的には、箱根火山および桜島火山では年2回、阿蘇火山では月1回の相対重力キャンペーン測定を実施し、重力時空間分布のデータを蓄積させる。また、阿蘇と桜島では、連続観測用に設置されている各重力計の保守作業を実施し、今後の火山活動に備えて重力時間変化の連続観測を継続する。その上で、各重力データを逐次解析し、火山内部の質量変動をモデル化する。さらに、重力データから推定された質量変動モデルを各火山で比較し、火山内部の質量変動プロセスに関して共通点や相違点を整理する。以上の研究内容については、随時学会発表や論文の形で成果発表し、観測データの公開も進めていく予定である。
次年度(2024年度)の交付額がこれまでの年度よりも少ないため、該当年度(2023年度)においては予算使用を節約した上で本研究課題を遂行した。次年度(2024年度)においては、次年度使用額を含め、主に重力観測のための出張旅費として助成金を使用する予定である。
すべて 2024 2023
すべて 雑誌論文 (9件) (うち国際共著 4件、 査読あり 2件、 オープンアクセス 8件) 学会発表 (14件)
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