研究課題/領域番号 |
22K03782
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研究機関 | 立命館大学 |
研究代表者 |
平野 史朗 立命館大学, 理工学部, 助教 (60726199)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | 数理地震学 / 断層 / 震源時間関数 / 確率微分方程式 / 強震動予測 |
研究実績の概要 |
これまで進めてきた、確率モデルによる断層滑り時刻歴(確率的震源時間関数)の簡便な生成法を提案した上で、同モデルが持つ統計的性質や、これを強震動予測に適用する場合に再現される特徴を吟味した。 前プロジェクトにて提案した確率的震源時間関数では、地震の継続時間も確率変数となっており、大部分の地震が極めて短い時間内で終わってしまうという特徴を持つ。これにより地震の規模についての経験則を旨く再現できているが、一方で強震動予測のように、特定の継続時間を持つ地震についての震源時間関数を生成したい場合には扱いが困難となる。そこでこれまで利用していた Bessel 過程という確率過程を支配する確率微分方程式を用いるのではなく、 Bessel 橋という確率変数を生成するアルゴリズムを用いて、任意の継続時間を持つ震源時間関数を生成した上で、それが(先述の、規模についてのものを除く)複数の地震学的経験則を満たすことを確認した。 こうして生成された確率的震源時間関数の応用として、これを強震動予測への入力とした場合の統計的性質を調べた。まず、新しいアルゴリズムでは地震動の高周波成分の強さをコントロールできることを示し、その程度によって予測される強震動の強さがどの程度の幅を持つかをシミュレートした。特に2重コーナー周波数モデルと呼ばれる震源モデルにまつわる一連の研究と比較した結果、観測された強震動の統計的性質を説明するために妥当なパラメタの範囲が明らかとなった。 将来発生しうる地震の細部は事前に予測し得ないため、強震動予測などは確率的に行なわれるべきである。本年度の成果は、そうした確率的予測への入力として確率的震源時間関数モデルが有効であることを示している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本課題に掲げた目標には、震源過程の時空間的な広がりを確率的に表現すると共に、そのモデルの応用可能性を検討することが含まれる。ここまでの成果では、先に単純な(空間的広がりを無視した場合についての)モデルの応用可能性を検証し、強震動予測における性能評価が可能になりつつある。また、不均質な地殻構造を仮定した上で地震波形を計算するための地震波動場シミュレータの利用準備も整い、デモンストレーション程度には地震波形を計算できるようになった。パラメタを変更しつつ同様の計算を多数実施することで、強震動予測の幅を定量化可能な見込みである。 また、空間的な広がりを考慮した確率モデルについては、数値シミュレーションによって確率波動方程式と地震破壊の類似性を複数発見し、2024年度上旬には学会発表を予定している。この研究を発展させることで、時空間的な震源過程逆解析の結果を説明しうる確率モデルを提唱することが期待できる。
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今後の研究の推進方策 |
前項記載の通り、確率波動方程式と震源過程との類似性を足がかりに、確率的な震源過程のモデル化を目指す。現時点では空間1次元のモデルを扱っており、実際の断層破壊が空間について(少なくとも)2次元的であることを考えると、不足と見なされる可能性が高い。しかし長大な断層では1次元モデルに近い振る舞いが期待されるなど、歴史的には1次元モデルからでも断層挙動についての理解が多数得られており、当面は1次元モデルに注力する。その範囲内で克服すべき課題は、解の挙動を表わす確率密度関数が不明であるために、個別の数値シミュレーションを実施せざるを得ないことである。確率モデルでは多数回のシミュレーション結果における統計的性質が重要であり、かつ決定論的モデルと同じ数値手法では計算精度が低下することから、高精度かつ多数回のシミュレーションを実施するためのコストが大きくなり、まずはこれを克服する。 同じ理由で、自由度の大きな空間2次元モデルの計算には更なる困難が予想される。そこでGPUを用いた並列計算による高速化の可能性を模索する。確率微分方程式の解はマルチスケールであり、細かい離散化が要求される。しかし既に市販のグラフィックボードにおいてもメモリが20GBを超えるものが入手可能となっており、2次元確率波動場のシミュレーションも期待できるレベルである。既存の確率偏微分方程式ソルバが本モデルに適用可能かを吟味し、不足があればコードを開発して、シミュレーション結果を得る。そして、その解の統計情報が震源過程逆解析における経験則をどのように満たすかを検証する。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初見込んだ渡米時の航空運賃と実費の差額によるもの。次年度の国際学会参加においては円安とインフレの影響により逆に渡航費用高騰が見込まれるため、この残額を充てる。
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