研究課題/領域番号 |
22K03787
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研究機関 | 国立研究開発法人海洋研究開発機構 |
研究代表者 |
吉田 晶樹 国立研究開発法人海洋研究開発機構, 海域地震火山部門(火山・地球内部研究センター), 主任研究員 (00371716)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 超大陸サイクル / 海水準変動 / マントル対流 / 大陸移動 / プレート運動 / 水深 / 数値シミュレーション / 理論解析 |
研究実績の概要 |
過去の地球の海水準変動の最も長い周期、つまり、第一次海水準変動の周期は、地球史における超大陸の形成と分裂の繰り返し(超大陸サイクル)の周期である約5~7億年の半分かそれよりも短い2~3億年と考えられている。超大陸の形成のシナリオには、超大陸が分裂して形成された内海が縮小する「内転」パターン(いわゆるウィルソンサイクル)と、超大陸を取り囲んでいた外海が縮小する「外転」パターンが提案されている。またそれらのエンドメンバーモデルに加え、内海と外海がそれぞれ部分的に縮小して超大陸が形成される「混合」パターンも考えられる。約3億年前に形成された超大陸パンゲアは内転パターン、原生代中期から初期に形成された超大陸ロディニアは外転パターンで形成されたという説がある。一方、古地磁気学的研究や地質学的研究、また、マントル対流の数値シミュレーション研究からは、未来の地球上に形成される「次の超大陸」は外転パターンか、むしろ混合パターンで形成されることが予測されている。 そこで今年度は、そのような異なる超大陸サイクルのパターンを考慮したマントル対流の比較的簡単な概念的モデルを構築し、超大陸サイクルが第一次海水準変動曲線に与える影響を調べた。海水準変動の周期や振幅を制御するいくつかの自由パラメータのもとで、設定した海洋プレートの年代に対応する水深から海水準変動の時間変化を解析した結果、層序学・堆積学的証拠から推定される過去(顕生代)の地球の海水準の長期変動を復元するためには、外海と内海における古い年代の海洋底が一定の深さに漸近して(平坦化:フラットニング)、水深が浅くなる効果が重要であることがわかった。さらに、プレートの沈み込みに伴う海水の体積の絶対量の変化は、超大陸パンゲアが分裂した約2億年前以降の海水準変動曲線を説明するために重要であることも示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上記の「研究実績の概要」で説明した、超大陸サイクルの概念的モデルに基づく理論解析のみならず、プレートテクトニクスと大陸移動を実現するマントル対流の数値シミュレーションモデルから、超大陸サイクルが第一次海水準変動に及ぼす影響を調べるための準備的なシミュレーションも同時に実施した。本課題の研究代表者がこれまで行ってきた、実際の地球の条件に近い三次元全球モデルのマントル対流シミュレーションでは、マントルの粘性率に関しては、リソスフェアの上下面の粘性率比を直接的に規定するパラメータを与え、プレートを局所的に「破壊」させる降伏応力も簡単な深さの関数として与えていた。しかし、本年度では、現実的なマントルレオロジー、特に、物質科学的実験で得られている活性化エネルギーや活性化体積等を考慮した流動則パラメータ、さらには、ドラッカー・プラーガーの降伏条件に基づいて定式化された降伏応力を導入した。これにより、惑星規模の長さをもつ低粘性のプレート境界と、それに囲まれた年間数センチメートルの運動速度をもつ高粘性のプレートを、対流するマントルの表面に実現することができた。 今年度予定していた数値シミュレーションのパラメータ研究の一部、及び、数値モデルの高度化の一部は、計算にかかる時間や研究時間の制約のために完了せず、次年度も継続して行うことになった。一方、本課題の計画当初は、研究手法として数値シミュレーションのみを考えていたが、研究を進めていく上で、海水準変動とマントルダイナミクスの関係についての根本的理解を深めるためには、上記の概念的モデルを用いた理論解析からのアプローチも重要であることに気付いて、実際に年度途中から研究を開始し、最終的に一定の結論を投稿論文にまとめることができた。したがって、研究はおおむね順調に進展していると判断する。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、超大陸サイクルを実現するマントル対流の数値シミュレーションモデルの構築を進める。そして、マントルレオロジーに関係するパラメータを系統的に変化させた数値シミュレーションを実施し、その違いによって大陸分布やプレート配置、プレートの年代や水深、海水準の時間変化のパターンがどのように変わるかを調べ、超大陸サイクルが第一次海水準変動に及ぼす影響に関する一般的理解を目指す。 また、大陸リソスフェアの自発的な分裂を実現するために、大陸プレート同士が衝突した場所が、実際の地球の大陸プレート内における縫合帯として働くようにするなど、数値モデルの高度化を進めつつ、超大陸サイクルが起こる地球物理学的条件やレオロジー条件を詳細に調べる予定である。そのためには、国内外の物質科学的実験の最新の知見や、本課題の研究代表者が行っている、その知見を考慮した地球ダイナミクスの数値シミュレーション研究の成果も考慮する必要があるかもしれない。 過去や現在の地球の上部マントルには、その深部に起源をもつ高温のマントル上昇流がある。そして、そのマントル上昇流はプレート運動よりも大きな速度をもつアセノスフェアの水平方向の流れを生む可能性がある。本課題において、海水準の長期変動の復元に必要だとわかった海洋プレートのフラットニングの原因の一つとして、これまで知られているマントルの対流運動によってもたらされる鉛直応力が海洋プレートを持ち上げる効果(ダイナミック・トポグラフィー)のみらず、そのようなアセノスフェアの水平方向の流れにも注目する必要がある。 さまざまな超大陸サイクルのシナリオや地球物理学的パラメータ・条件を考慮したマントル対流の概念的モデルに基づいた理論解析研究も今後発展させ、海水準変動とマントルダイナミクスの関係について、理解をさらに深化させる予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
年度末に当初予定になかった概念的モデルの結果を投稿論文にまとめたが、英文校正の納品が次年度にずれ込む見込みになったため。
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