地震波解析と数値計算に基づく複数海山の沈み込みが作る変形構造・応力場の解明

2023 年度 実施状況報告書

• 研究課題/領域番号: 22K03789
• 研究機関: 国立研究開発法人海洋研究開発機構
• 研究代表者: 新井 隆太 国立研究開発法人海洋研究開発機構, 海域地震火山部門(地震発生帯研究センター), 副主任研究員 (20738752)
• 研究分担者: 古市 幹人 国立研究開発法人海洋研究開発機構, 付加価値情報創生部門(数理科学・先端技術研究開発センター), グループリーダー (50415981)
• 研究期間 (年度): 2022-04-01 – 2025-03-31
• キーワード: 海山 / 地震波速度異方性 / 応力場 / 個別要素法 / 日向灘

研究実績の概要

本研究は複数の海山が沈み込む場合に生じるプレート境界周辺の変形構造と応力分布を解明することを目的としている。研究対象として、九州パラオ海嶺が沈み込む日向灘海域を扱う。地震波データ解析に基づくプレート内部構造と応力場の推定と、個別要素法を用いた数値計算による再現実験を実施し、両者の知見を統合的に解釈することで、海山沈み込み問題を検討する。
2年目にあたる2023年度は、まず地震波データの解析から、昨年度発見した上盤プレート内の流体経路（破砕帯構造）が調査海域の広域にわたって多数存在することを発見した。さらに、その分布が沈み込むフィリピン海プレートの地殻の厚さおよび基盤の凹凸の空間変化とよく一致することを示した。これらの結果から、九州パラオ海嶺およびその東側数十kmにわたってフィリピン海プレートは極めて不均質な構造を呈しており、それらが沈み込むことによって上盤プレートに著しい変形を生じていると推定される。さらに、こうしたプレート境界周辺の構造不均質がプレートカップリングの空間変化およびスロー地震の分布とも相関することを明らかにした。
一方、数値計算では、昨年度新たに開発した岩箱数値実験を用いて、地質学的年代スケールで発達する沈み込み帯付加体の発達と秒単位で進行する断層すべり（地震発生）、さらに地震波動伝播を同一のスキーム内で再現することに成功した。
これらの成果について、本年度は3編の国際学術論文を出版した。そのうちNature Communications誌に掲載された成果についてプレスリリースを実施したところ、新聞2紙に記事が掲載された。

現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

地震波データの解析から、海山沈み込みによる上盤プレート内の不均質構造の広域的な分布とその要因が明らかになった。数値計算においても、昨年度新たに開発した数値計算手法を用いた再現実験が進展した。いずれの項目も国際学術論文への成果発表も進んでおり、当初予定していた通り研究が進展していると言える。

今後の研究の推進方策

2年目において、地震波観測で確認されているプレート収束域の断層構造や地震発生に関する知見を数値計算に取り込めるようになってきた。次年度は、これらの統合をさらに加速させ、日向灘を模擬したより現実的な再現実験を試みる。

次年度使用額が生じた理由

本年度予算としてデータストレージ購入費、学会参加費、論文掲載料を計上していたが、いずれも他の研究費から充当できたため。繰り越す助成金は次年度の同項目に使用する計画である。

研究成果

• [雑誌論文] Virtual earthquakes in a numerical granular rock box experiment (2024)
  • 著者名/発表者名: Furuichi Mikito、Chen Jian、Nishiura Daisuke、Arai Ryuta、Yamamoto Yuzuru、Ide Satoshi
  • 雑誌名: Tectonophysics 巻: 874 ページ: －
  • DOI: 10.1016/j.tecto.2024.230230
  • 査読あり / オープンアクセス
• [雑誌論文] Upper-plate conduits linked to plate boundary that hosts slow earthquakes (2023)
  • 著者名/発表者名: Arai Ryuta、Miura Seiichi、Nakamura Yasuyuki、Fujie Gou、Kodaira Shuichi、Kaiho Yuka、Mochizuki Kimihiro、Nakata Rie、Kinoshita Masataka、Hashimoto Yoshitaka、Hamada Yohei、Okino Kyoko
  • 雑誌名: Nature Communications 巻: 14 ページ: －
  • DOI: 10.1038/s41467-023-40762-4
  • 査読あり / オープンアクセス
• [雑誌論文] Thrust formation using a numerical granular rock box experiment (2023)
  • 著者名/発表者名: Furuichi Mikito、Chen Jian、Nishiura Daisuke、Arai Ryuta、Yamamoto Yuzuru
  • 雑誌名: Tectonophysics 巻: 862 ページ: －
  • DOI: 10.1016/j.tecto.2023.229963
  • 査読あり / オープンアクセス
• [学会発表] Ridge subduction and seismogenesis in the westernmost Nankai Trough (2024)
  • 著者名/発表者名: Ryuta Arai
  • 学会等名: First Joint International Earthquake Science Symposium
  • 国際学会
• [学会発表] Correlation between plate boundary structure and distribution of shallow slow earthquakes in the western Nankai Trough (2023)
  • 著者名/発表者名: 新井 隆太、白石 和也、三浦 誠一、高橋 努、中村 恭之、藤江 剛、小平 秀一、海宝 由佳、濱田 洋平、Ma Yanxue
  • 学会等名: Japan Geoscience Union Meeting 2023
• [学会発表] 上盤プレート内の破砕帯と弱いプレート間固着を生み出す九州パラオ海嶺の沈み込み構造 (2023)
  • 著者名/発表者名: 新井隆太、白石和也、中村恭之、藤江剛、三浦誠一、小平秀一、Bassett Dan、高橋努、海宝由佳、 濱田洋平、望月公廣、仲田理映、木下正高、Ma Yanxue、橋本善孝、沖野郷子
  • 学会等名: 日本地震学会2023年度秋季大会
• [学会発表] Weak interplate coupling and upper-plate fluid conduits caused by the ridge subduction in the westernmost Nankai subduction zone (2023)
  • 著者名/発表者名: Ryuta Arai, Kazuya Shiraishi, Yasuyuki Nakamura, Gou Fujie, Seiichi Miura, Shuichi Kodaira, Dan Bassett, Tsutomu Takahashi, Yuka Kaiho, Yohei Hamada, Kimihiro Mochizuki, Rie Nakata, Masataka Kinoshita, Yanxue Ma, Yoshitaka Hashimoto, Kyoko Okino
  • 学会等名: AGU Fall Meeting 2023
  • 国際学会