研究課題/領域番号 |
22K03819
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研究機関 | 公益財団法人高輝度光科学研究センター |
研究代表者 |
豊川 秀訓 公益財団法人高輝度光科学研究センター, 放射光利用研究基盤センター, 特別嘱託研究職員 (60344397)
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研究分担者 |
鈴木 賢治 新潟大学, 人文社会科学系, 教授 (30154537)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | X線応力測定 / 2次元検出器 |
研究実績の概要 |
遮熱コーティング(TBC)の熱的・機械的特性および残留応力は成膜方法により大きく異なる上に,熱サイクルに伴う温度環境によっても大きく変化する.近年,新たに開発されたサスペンション・プラズマ・スプレー(SPS)による方法は,ジルコニアを混濁液の状態でプラズマ溶射する方法である.これは,従来の大気プラズマスプレー(APS)と比較して耐熱サイクル性などの向上が期待されている.SPSは独特な柱状組織を形成し,その柱状組織が応力緩和機構を持っていることが,放射光およびラボX線の研究で明らかとなった.しかし,トップコートとボンドコートの界面での強度については,未開のままである. さらに,CdTeピクセル検出器を用いた熱サイクルに伴うTBCの非定常熱応力の高速その場測定に挑戦した.大型放射光施設SPring-8のビームラインBL02B1にCdTeピクセル検出器と電気炉を用意して,室温から1073 Kまでの熱サイクル下で応力測定を実施した.従来は,回折計を利用した熱サイクル試験であったために,長時間を要していた.そのため,各測定温度で一様な温度下で応力測定する定常熱応力しか測定できていなかった.本研究では,2次元検出器を利用して高速測定できることから,これまで計測でくなかった非定常熱応力挙動を測定することに成功した.試験片として,前述のAPSとSPSの2種類の試験片を用意して,それぞれ定常および非定常の熱応力を測定した.その結果,各TBCの定常熱応力と非定常熱応力の比較から,熱的・機械的特性がわかった.また,APSとSPSを比較することで,トップコートのラメラ組織のすべり機構と柱状組織による緩和機構の違い明らかにした.これらは今後の耐熱サイクル性と寿命評価に役立つものと考えられる. 高速測定には試験片の回転速度を改善する必要があり,新たな計測方法を検討しなければならない.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでの計画に沿って概ね予定通り研究が遂行されている.非定常応力測定においてsin自乗ψ法は,温度変化に依存して格子定数が変化しても正しく応力測定できることが実証され,その優位性が認められた.しかしながら,ψ角を回転させるための機構(回折計のχ軸)が必要であり,その回転操作で時間を要することがも大きな課題となっている.この問題を解決すれば,本研究の大きな進展が期待できる. 侵入深さ一定法,sin自乗ψ法方などは優れた手法ではあり,それを利用して遮熱コーティングの組織と機械的特性の関係は概ね明らかにすることができ,研究成果の発表もほぼ完了した.本課題の残る課題は,高速測定の障害である試験片を回転させずに,sin自乗ψ法を適用する解析方法をいかに確立することになる.
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今後の研究の推進方策 |
「進捗状況」で述べたように,試験片を回転させずに,sin自乗ψ法を適用する解析方法を発案し,それを試行して,新たな拘束応力測定を実験することが中心的課題である.その方法として,CdTeびくセル検出器の特性を利用して,試験片を回転させる応力測定法を考えている.そのためには,入射ビームを反射型から透過型に切り替えて,既報で提案したcos自乗χ法(doi: 10.2472/jsms.67.708)と同様の応力測定法を利用する.0次元検出器をCdTeピクセル検出器に変更すると試験片のχ軸回転が不要となり,単一露光で回折が測定できる.ただし,透過型になるので,二重露光法を必要となるかもしれない.電気炉の回転もないので,効率的である.さらに,透過光を利用することから,微小利用域の応力評価ができるので,遮熱コーテイングのトップコート表面からボンドコートに至る膜厚さ方向の応力分布を知ることも可能であり,その成果が期待できる.
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次年度使用額が生じた理由 |
検出器とは試験片回転との連動制御開発については半導体不足による遅延があり、次年度に集中して実施することとした。
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