研究課題/領域番号 |
22K03820
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
藤村 奈央 北海道大学, 工学研究院, 助教 (40732988)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 表面改質 / 組織の微細化 / 振動圧縮負荷 / 接触 / マグネシウム合金 |
研究実績の概要 |
本研究では、振動するインデンタで低荷重の圧縮負荷を材料表面に走査しながら与えることで表層を改質する技術:Scanning Cyclic Press(SCP)の加工パラメータが金属の表層組織や構造、機械的性質の変化に及ぼす影響を表面改質実験と数値解析に基づいて検討し、本技術による改質機構を明らかにすることを目指している。SCPでは、負荷の大きさやその繰返し数、付与する速さなどを加工パラメータとして設定することができる。これらパラメータのうち、2022年度は負荷の大きさに着目し、以下の検討を行った。 表面改質実験では、マグネシウム合金の丸棒試験片に対して、2種類の負荷の大きさでSCPを施し、各試験片の断面組織をSEM/EBSD法で観察した。その結果、試験片表層に微細粒や双晶を含む改質層が形成されたことが確認された。負荷の大きさの違いに着目すると、負荷が大きい方がより表層組織が微細化され、より深くまで改質層が形成されていた。各試験片の断面において、表面から材料内部への硬さ分布をナノインデンテーションで測定した結果、表面の硬さは内部に比べて高かったが、そこから数百μmほど内部に行くに従って徐々に下がる傾向が得られた。硬さ分布についても、負荷の大きさが大きい方が表面の硬さが高く、より内部まで硬くなっていた。 改質組織と負荷との関係を検討するため、SCPの負荷過程を「丸棒試験片にインデンタ(球)を1回だけ押し込んで圧縮荷重を負荷し、これを除荷する」と単純化したモデルを作成して有限要素法による弾塑性接触解析を行い、試験片表層に生じる応力分布やひずみを推定した。その結果、圧縮負荷を加えたときにインデンタとの接触部直下が降伏し、除荷後の表層には塑性ひずみが残留することが示された。また、降伏した領域や塑性ひずみが残留する深さは、各試験片断面で観察された改質組織と概ね対応することが示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2022年度は、SCP表面改質における負荷の大きさに着目し、これが改質後の表層組織に及ぼす影響を実験と数値解析から検討することを目標としていた。これに対し、表面改質実験では、異なる負荷の大きさでSCPを施した試験片の断面組織観察から、形成された改質組織の様子や深さの違いを定性的に明らかにした。また、硬さ分布を得ることで、SCPによって表層のどの範囲まで改質されているかを定量的に示した。一方、数値解析では、実際のSCPの負荷過程は複雑であるため、インデンタで試験片に1回だけ負荷・除荷を行う単純化した解析モデルを作成した。これによって、試験片における接触部直下の応力・ひずみ分布を推定し、実験結果と比較検討を行うことで、改質組織と負荷との関係を得ることができた。以上のことから、全体として、おおむね順調に進展していると判断する。
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今後の研究の推進方策 |
2022年度に引き続き、マグネシウム合金を対象として種々の加工パラメータでSCPを適用し、加工パラメータが金属の表層組織の変化に及ぼす影響を断面組織観察やナノインデンテーションによる硬さ測定から検討する。断面組織の観察・分析には、所属する北海道大学の共同利用施設に設置されている機器・設備を利用し、主に走査型電子顕微鏡によるEBSD解析や透過型電子顕微鏡による観察を行う。数値解析については、インデンタを試験片に1回押し込むだけの解析を行うことができたので、2023年度以降は、実際のSCPで行っているように、インデンタを走査することによる表層への影響を検討できる解析モデルの作成に取り組む。また、実際の改質装置では、インデンタで負荷を加える際に試験片が曲がらないよう反力受けで試験片を支持しているが、現在の解析モデルにこれは含まれていないため、反力受けを加えたモデルを作成し、負荷によって生じる応力・ひずみ分布を検討することも試みる。
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次年度使用額が生じた理由 |
SCP表面改質装置において試験片を支持する反力受けは、改質時に試験片との摩擦で摩耗するため、試験機関連の消耗品として予算に計上していた。2022年度に、損傷部分のみを交換できるよう反力受けを改造した結果、これによって以前よりも安価に反力受けのメンテナンスを行うことができるようになったため、消耗品費としての支出が抑えられた。また、物品購入費として、改質装置で使用している油圧サーボバルブを新しく購入するための費用を計上していたが、当初の見積もりよりも若干低価格で入手することができ、予定よりも支出が少なくなった。一方、2022年度に得られた成果の一部を論文としてまとめる目途が立ったことと、2023年度に開催される国際会議で発表する予定があることから、発生した次年度使用額はこれら論文執筆に係る校正費用ならびに国際会議への参加費用として使用することとした。
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