研究課題/領域番号 |
22K03846
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研究機関 | 拓殖大学 |
研究代表者 |
渡辺 裕二 拓殖大学, 工学部, 教授 (30201239)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 超音波加工 / 鏡面加工 / 超音波バニシング加工 / 精密加工 / パルス駆動 / ホーン形状 |
研究実績の概要 |
超音波バニシング加工において生ずる工具の跳躍や横滑りなどによる加工精度低下の防止のため、本研究ではパルス波の利用を提唱している。パルス波は1つ1つの凹凸を確実に均すことが可能である。一方、入力する電気エネルギーが小さく、出力としての力学的エネルギーが共振系に対して小さいので、工具端面において所定の振動振幅を得る事が難しい。今年度はパルスの増幅方法の確立のため、傾斜機能材料を用いて昨年度に試作したパルス増幅ホーンの実験による評価と、ホーン形状に関してテーパーを設けた場合の増幅効果のシミュレーションによる評価を並行して行った。 機能傾斜材料を用いて音速分布を設けたホーンは、以下のように2つの問題が明らかとなった。材料の音速比の問題と製作上の問題である。ここでは、ジルコニア(音速5800m/s)とチタン合金(音速5060m/s)を用いた。ジルコニア側からチタン合金側にパルスを伝搬させると振幅が増幅するというアイデアである。実験の結果、音速比が小さいため、有意差のある増幅効果が見られなかった。同時に、材料自体がグラデーションをもって分布するのではなく、製造上の理由から層状になることが分かった。そのため、境界面における多重反射のため、パルス形状を保ったまま伝搬させることが極めて困難であることが判明した。 一方、テーパーによる形状効果検証のシミュレーションにおいては、ホーン端部に衝撃を与えた場合の伝搬状況を確認した。均一材料について、先端に向かって単純に径を絞り込む形状が有効であることがわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
パルス波の増幅方法について、機能傾斜材料を用いて音速分布を持たせたホーンの効果確認を優先して検討してきた。2022年度の試作依頼先企業との議論により、材料として採用したのはジルコニアとチタンであった。相性が良く、粉末を焼結する際も剥離などが小さいと考えた。またジルコニアは加工も可能であり、振動子との連結ネジも加工できることから、本研究に適した材料と判断した。しかし、実際の製法は成分比を変えた粉末を積層して焼結させるため、境界面が生成される。今年度は試作したホーンに圧電振動子を連結してパルス駆動を試みたところ、残響振動の発生が充分に抑制できなかった。境界面の存在による多重反射と考えている。また、パルス波の振幅増幅についても、有意差のある効果が得られなかった。十分な音速差ではなかったためと考えている。 その後、層を生成しない製法について複数の企業に問い合わせたが、論文発表のみで実績がない、再現性が保証できないなどの理由で停滞している。着手前の調査が不十分であった。 一方、形状効果によるパルス波増幅については、シミュレーション結果および現有ホーンによる試行実験のいずれも増幅効果が得られており、今後は形状効果の検証を優先する。
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今後の研究の推進方策 |
現在までに、パルス波駆動のための圧電振動子の作成手法(圧電セラミックを積層したランジバン型振動子)、パルス波駆動のための駆動電圧波形の制御方法(残響振動の抑制法)、実験装置一式および加工表面の評価装置等が整備された。さらに、今年度は最終年度としてホーン形状の効果検証に絞って進めている。昨年度試作したいくつかのホーンから、ジュラルミンホーンの先端にジルコニア工具を結合したタイプを採用し、諸条件下でのバニシング加工後の表面評価を進め、最適加工条件を提示する。パルス駆動自体の駆動方法に関しては超音波シンポジウム、加工結果の評価については塑性加工学会にて公表したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初の計画では、2023年度に傾斜機能材料によるホーン製作を進める予定となっていたが、2022年度の試作ホーンについて、所定の機能の実現が極めて困難な状態であることが確認できたことから、製作方法を再検討する必要が生じた。すなわち、層状にならない焼結法の検討である。相当の期間を要したが、新たな試作依頼先が見つからなかったため、傾斜機能材料による音速分布方式ではなく、形状効果方式に重点を移した。現有の振動解析ソフトおよび現有振動子などでシミュレーションや実験が可能であったため、費用の発生は無かった。現在、これらの試行実験やシミュレーション結果を基に、振動子製作、ホーン製作、ジルコニア工具等の製作を進めている。
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