研究課題/領域番号 |
22K03898
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
金川 哲也 筑波大学, システム情報系, 准教授 (80726307)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 圧力波 / 衝撃波 / ソリトン / 気泡 / 弱非線形方程式 / 気泡流 / 水管 / 非線形波動 |
研究実績の概要 |
液体中において、圧力波が衝撃波に非線形発展すると、衝撃波面の熱的散逸効果によって、水管の壁面損傷等を生じ、重大事故に繋がりかねない。この損傷を抑制すべく、液体中に気泡を混入し、気泡振動に起因する圧力波の分散効果を利用したい。圧力波の非線形効果が、散逸効果とつりあうならば衝撃波が形成されるが、分散効果とつりあうならば(音響)ソリトンという安定した波が形成される。そこで、衝撃波をソリトンに変換することを目指す。衝撃波とソリトンは、その物理的性質が著しく異なり、離れたものとして認知されてきたことも多いが、本研究では、気泡流中において衝撃波とソリトンの双方を記述可能な数理モデル「弱非線形方程式(非線形・散逸・分散の各効果を表現する方程式。KdV-Burgers式などが著名)」に着眼する。本研究は、上記損傷抑制の構想を達成するための基礎研究を、理論と数値計算の両面から行う。 本年度は下記成果が得られ、計7編の査読付雑誌論文が掲載・採択された: (1)実現象に即した気泡流のモデリングにおいて重要な要素の一つである初期の多分散性(気泡径の非一様性)に着目した。多分散性を有する気泡流中圧力波を記述する弱非線形方程式の導出と数値的検証を行った(Phys. Fluids とInt. J. Multiph. Flowに各1編掲載)。(2)昨今重要度が高まっている粘弾性流体のモデリングを見据え、液相の弾性に着目した弱非線形方程式を構築した(Phys. Fluidsに掲載)。(3)弱非線形方程式は気泡流の基礎方程式系から導かれるため、基礎方程式系も成否の鍵を握る。研究協力者(2023年度研究分担者)の鮎貝(JSPS特別研究員DC1)を中心に、基礎方程式系の新規構築および安定性解析を行い、精度向上に資する成果を得た(Int. J. Multiph. Flowに掲載)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
以下の理由を根拠に判断した: 1.概ね当初計画の通りに研究を遂行し、成果は初年度内に国際誌7編 (内5編Q1)(いずれもIF2021が4以上)への原著論文として掲載・採択された。これは、質と量ともに当初計画を上回っており、成果の広範な周知にも資する。 2.当初計画に含まれていなかった解析にも着手できた。例えば、より根源的な視点に立ち、気泡流の基礎方程式自体の改良に着手した成果も国際誌に1編掲載された。また、水管損傷抑制とは異なるが、気泡流中圧力波の観点からは数理的に同等な応用先である超音波診断に資する造影気泡に係る数理モデルの構築にも取り組み、成果が国際誌に3編掲載された。 3.代表者が、本研究成果の社会実装に向けた研究提案「水管の損傷回避と洗浄を両立可能な新技術の開発」に対して、わかしゃち奨励賞基礎研究部門優秀賞を受賞した(2023年1月)。これは成果の社会還元や技術開発の布石として重要であり、実際に1社より技術開発に関する面談を行った。 4.本研究成果の基礎となる業績に対して、代表者が日本流体力学会竜門賞を受賞した。本研究に携わった指導学生が行った、研究成果に関する学会発表に対して、学生を主対象とする講演表彰7件の受賞があった。以上は成果の広報等に資する。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は、初年度の成果を受けて、最終年度における総括も意識しながら、本報告書作成時点においては、以下の点に重点を置きながら進める予定である: 1.原則的には、当初計画通りに研究を遂行する。成果は一流国際誌に公表し、世界的視野に立って周知する。 2.上記1の反面、計画通りに進まない場合も十分に想定されるが、計3年間の研究計画でもあり、不進捗時には冷静な判断が必要である。研究計画の定常的な見直し、研究の進展に伴う研究計画の適切な変更や入替を行う。当初計画を上回る成果を常に追求することはいうまでもない。 3.数値計算よりもその基礎となる理論解析のウエイトが高くなっている。当初計画通りではあるものの、数値計算のウエイトを高めることが、成果の社会還元等を鑑みると、有効と考えられるため、可能な範囲で見直しを行う。 4.成果は論文誌に留めず、国内外の学術表彰を狙うこと、プレスリリース(初年度に2件)などを行うことで、広範かつ多様な周知に努める。
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次年度使用額が生じた理由 |
参加予定学会の一部がオンライン開催となったことによる旅費の未消化、一部成果の論文投稿の遅延などによって、次年度使用額が生じた。これらは、次年度、旅費、論文掲載関連経費(論文投稿・掲載・オープンアクセス費および英文校正費)などに充てる予定である。
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