研究課題/領域番号 |
22K03921
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
三神 史彦 千葉大学, 大学院工学研究院, 准教授 (40272348)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 粘弾性流体 / 磁気流体力学 / アルベン波 / コア流れ / 伴流 / 数値シミュレーション / 偏光イメージング / イベントカメラ |
研究実績の概要 |
本研究は,磁気流体力学の理論を粘弾性流体の流れのモデル構築に適用し,物体のまわりで観察される複雑で特異な流動現象を解明することを目指す.令和5年度の主な研究進展を以下に述べる. 1.高感度・高時間分解能の観測技術の導入: 新たに導入したイベントカメラによる偏光計測技術は,非常に短い時間スケールでの流体の動きを捉える能力を持つ.特に,ひも状ミセル水溶液中を球体が沈降する際に生じるせん断波の伝播を詳細に可視化することができた.この高度な観測により,球体の沈降速度が急速に変化する際に球体後端で生じる突発的な流れの変化を初めて明らかにした. 2.一軸応力状態を用いた流れモデルの開発: 粘弾性流体の流れにおいて一軸応力状態を仮定し,磁気流体力学の理論を適用した.応力テンソルが流れに「凍結」する現象を表す式から,速度分布が決まることを示した.この理論に基づき,回転二重円筒間の流れで,流体が剛体回転するような速度分布を持つコア流れ領域が形成されることが明らかになった.また,平行平板間流れで,一様な速度を示す流れの領域が生じることも予測した.数値シミュレーションにより,これらのコア流れ領域が粘弾性流体の流れにおいても実際に生じることが確認された. 3.粘弾性流体中でのアルベン波類似現象と伴流の研究: 粘弾性流体の流れにおいて流線が張力を帯びる現象を詳しく調べた.その結果,磁気流体力学におけるアルベン波の類似現象が観察された.この現象により,アルベン波の伝播速度より遅い流速で,粘弾性流体中におかれた物体から前方に向かって伸びる伴流が形成されることが明らかになった.数値シミュレーションにより,この理論が粘弾性流体の流れにおいても有効であることが示された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
「おおむね順調に進展している」と評価できる主要な進捗は以下の通りである. 1.新規観測技術の導入とその成果: 新たに導入したイベントカメラによる偏光計測技術は,非常に短い時間スケールで流体の動きを捉える能力を持つ.この技術を用いて,ひも状ミセル水溶液中で球体が沈降する際に生じるせん断波の伝播を詳細に可視化し,これまで観察されなかった球体後端での突発的な流れの変化を明らかにした.この進展は,粘弾性流体の流動を理解する上で大きな突破口となり,新たな科学的知見を提供している. 2.理論モデルの開発と数値シミュレーションによる検証: 粘弾性流体の一軸応力状態を想定し,磁気流体力学の理論を適用した新しいモデルを開発した.このモデルは,応力テンソルが流れに「凍結」する現象を表し,回転二重円筒間や平行平板間の流れで予測された速度分布の特徴を数値シミュレーションで確認することができた.これらの結果はモデルの妥当性を裏付けるものである. 3.粘弾性流体におけるアルベン波と伴流の新発見: 粘弾性流体中でアルベン波の類似現象が観察され,アルベン波の伝播速度よりも遅い流速で,粘弾性流体中におかれた物体から前方に向かって伸びる伴流が形成されることが明らかになった.これは粘弾性流体の力学と磁気流体力学の交差点における新しい科学的知見であり,粘弾性流体の挙動を理解する上で新たな視点を提供している. これらの進展は,本研究計画の目標に対して明確な進歩を示しており,研究が予定どおりかつ効果的に進行していることを示している.このことから,研究の進捗状況はおおむね順調であると評価される.
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今後の研究の推進方策 |
1.実験による理論の検証: コア流れや前向き伴流といった,理論や数値シミュレーションで確認された流れパターンを実験的に実証することに焦点を当てる.PIV計測を用いて速度場を精密に調査し,理論モデルが予測する流れの挙動を具体的に観察する.これによって,理論の予測と実際の流れの一致を確かめ,理論の妥当性を広範囲にわたって検証する. 2.沈降速度急変現象の解析: イベントカメラによる偏光計測技術を駆使し,ひも状ミセル水溶液中で球体が沈降する際の速度の急変およびその背後のメカニズムを詳細に分析する.特に,球体の速度が繰り返し急変する現象に焦点を当て,自発的な急変が生じる原因を明らかにするために,計測データを蓄積し分析を行う. 3.張力のリコネクションの研究: 粘弾性流体中で観測される主応力場のリコネクション現象を,磁気流体力学の類似性を活用して分析する.トポロジー的アプローチを導入し,流れの局所的な構造変化が全体の流れの挙動にどのように影響を及ぼすかを新たな視点から理解するための研究を進める.これによって,理論的な洞察を深め,これまでの成果の不足点を補う. 4.巻き締め張力の影響に関する研究: 物体の回転に伴い発生する巻き締め張力が,流体中のジェットや流れパターンにどのような影響を与えるかを詳しく調査する.PIV計測を用いて,回転する物体周辺の流速分布を詳細に分析し,磁気流体力学の知見と比較して,ジェットの到達距離や流れパターンの変化を解明する.
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度は理論の構築と数値シミュレーションに注力したため,実験に必要な支出が予定よりも少なくなり,未使用分が生じた.この未使用額は,次年度に予定されている国際会議での成果発表に充てることになっている.具体的には,参加費や外国旅費に使用し,最近の円安や物価高のため増加しているコストの補填に役立てる予定である.
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備考 |
研究会での発表:滝澤大成,三神史彦,擬似圧縮性法による球まわりの粘弾性流体流れの軸対称計算,第26回複雑流体研究会(主催:日本機械学会 流体工学部門 複雑流体研究会)2023年
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