研究課題/領域番号 |
22K03925
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
岡林 希依 大阪大学, 大学院工学研究科, 助教 (40774162)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | キャビテーション / データ駆動科学 / 翼 / 機械学習 / 数値流体力学 / データ同化 / 乱流 |
研究実績の概要 |
相変化も伴う代表的な混相乱流の一つである,キャビテーション流れの数値シミュレーションにおいて,画像処理を利用した計測法により取得したデータを学習データとしたニューラルネットワーク(NN)で数理モデルを代替し,複雑かつ多様なキャビテーション現象を表すことを目的とする.また,それが有するデータ同化的側面によってキャビテーション流れの数値シミュレーションを高精度化する. 研究期間の初年度には,解析対象として二次元翼の周りのキャビテーション流れを採用し,CFDデータベースを訓練データセットとしたデータ駆動型キャビテーションモデル(実態としてはNN)を流れの数値シミュレーションコードに実装したa posterioriテストを行った.しかしながら,強い非定常性を有するキャビテーション現象に起因する数値的不安定性に機械学習モデルの予測誤差が加わることで計算が発散した.今年度は,これを改善するために,非定常性が特に強い箇所を局所的に強調し,NNの損失関数に反映するという工夫を試したが,効果は限定的であった.また,比較的定常な流れ場に対しても,同様の結果が得られた. また,計測データに基づく訓練データセットの構築のために二つの研究要素を実施した.一つ目として,現在のキャビテーション流れで取得できる計測データを想定した疑似データを用いた双子実験を,アンサンブルカルマンフィルタを用いて行い,訓練データセットを構築するために必要な前処理(計測誤差・観測ノイズの除去,欠測データの補完,支配方程式の満足)の実現可能性を示した. 二つ目として,高々空間二次元である粒子画像流速測定法などの計測データを,CFDデータを援用した超解像機械学習ネットワークによって三次元に拡張する手法を開発した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究は,1.CFDデータベースを学習させたデータ駆動型モデルによるキャビテーション流れの数値シミュレーションの枠組みを構築すること,2.マルチタスク学習による汎化性能の調査,3.学習した流れ場とは異なる場への転移学習,の3つの小課題からなる.3年間の研究期間のうち,上記の課題1について,強い非定常性を伴う現象を,NNが局所的な質量保存を満足しつつ,それを支配方程式とカップリングすることは困難であるという知見が得られ,方針転換を余儀なくされたため,「やや遅れている」を選択した.しかしながら,将来的に用いる予定である,計測データに基づく訓練データセットの構築手法の開発を完了し,一定の成果を挙げた.
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今後の研究の推進方策 |
R5年度までの成果として,急激な気泡発生や消滅,大規模な気膜の運動など,局所的な強い非定常性に起因する数値的に不安定な領域に,データ駆動型モデルが予測した時間微分項の精度不足が加わることで質量保存誤差が拡大し,計算が発散することがわかっている.そこで,今後は数理モデルだけをNNで置き換え,支配方程式とカップリングして解くのではなく,支配方程式も含めてNNで代替したリアルタイム性のあるサロゲートモデルを作成するという方針に転換する.さらに,まったく異なる解析対象(ドメイン)をそれぞれ学習した複数のサロゲートモデルから,AIのドメイン汎化技術を用いて,計測対象や流れ条件を除いた両ドメインに共通する特徴,すなわちこれまで数理モデルで記述してきた(あるいは記述できていなかった)キャビテーション流れの本質的な物理を抽出し,訓練データセットにない解析対象にまで一般化する.さらに,獲得したブラックボックス的なサロゲートモデルを説明可能なAI(Explainable AI; XAI)の技術を用いて人間に理解できる形にして流れの本質を明らかにする.また,R5年度に構築した手法を用いて,双子実験ではなく実際の計測データを用いたデータ同化を行い,計測データに基づく訓練データセットの作成を行う.
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次年度使用額が生じた理由 |
大阪大学サイバーメディアセンター大規模計算機システムの公募型利用制度に採択され,計算機使用料の一部が免除されたため.次年度の計算機使用料に使用する.
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