研究課題/領域番号 |
22K03955
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研究機関 | 函館工業高等専門学校 |
研究代表者 |
川合 政人 函館工業高等専門学校, 生産システム工学科, 准教授 (70511278)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 複合可視化 / PIV / CO2濃度 / CO2ハイドレート / シクロペンタン |
研究実績の概要 |
CO2ハイドレート(CH)は,水分子が規則的に籠構造で結合してそれぞれの籠にCO2分子が一つずつ入った物質である.CHに取り込まれたCO2は気体のときよりも高密度になるので,CHはCO2の貯蔵性が高いという特長がある.燃焼ガスからCO2だけを吸収したり,海水から真水だけを取り出すことができるので,CHはSDGsの達成に寄与するキーテクノロジーとみなされており,その「生成促進技術」に注目が集まっている.しかしながら,CH生成場で何が起こっているのかを直接的に観察する装置の開発はまだ行われていない.本研究では,CH生成の流れ場,CO2溶解挙動,そして温度分布の観察を実現する計測装置を構築する.本研究の目的は,「生成反応部の流れ場,CO2溶解挙動,温度分布の同期計測手法を確立」し,「本手法を用いて非撹拌条件下におけるシクロペンタン(CP)を添加したCHの生成開始に至る機構の解明」を通して観測装置としての有効性を示すことである.本研究の学術的独自性と創造性は,CH生成反応の観察方法にある.本研究では,画像相関法(PIV)で流れ場を,pH指示薬でCO2濃度を可視化し,多点温度センサを容器内に複数挿入して温度場を計測する.これらの計測を同期させて現象を複眼的に観察しようとする試みは他に類がない.したがって,この観察手法が構築できれば,可視化計測分野においても,CH分野においても,学術的意義は大きい. 今年度に実施した内容を以下に示す. 〇実験系の構築:可視化されたハイドレート生成容器を製作した.可視化容器は,既存実験系のハイドレート生成容器の形状と寸法をもとに設計した. 〇流れ場の可視化:可視容器の機能を確認することを目的として,大気圧条件下で流れ場の可視化実験を行った.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度実施予定であった,実験系の構築と流れ場の可視化についての進捗状況を以下に記す. 〇実験系の構築:進捗状況は計画通りであった. 可視化されたハイドレート生成容器(可視化容器)を製作した.可視化容器は,既存実験系のハイドレート生成容器(不可視容器)の形状(縦型の円筒形状)と寸法(内径50㎜,深さ51㎜)をもとに設計した.可視化容器の内部形状は直方体で高さは51㎜,幅は50㎜,奥行きは20㎜である.これにより,不可視容器の縦断面に相当する空間を模擬した.可視容器の前後面は透明アクリル樹脂としており,前面から生成部を観察可能である.また,背面は今のところ覆いで遮光しているが,次年度以降は発光シートを配置してCO2濃度を計測する際に一時的に生成部を照明する機能を追加する. 〇流れ場の可視化:進捗状況はほぼ計画通りであった. CH生成機構解明の第一段階として,可視化容器の有効性を検証する実験を行った.CHを生成するためには,可視化容器内に水,シクロペンタン(CP)と高圧のCO2気体を充填したうえで冷却する必要がある.しかし,本実験ではCO2の充填と加圧は行わず,大気圧下での水の自然対流の可視化を試みた.粒子を混入させた純水を可視化容器内に充填し,メインプレート上部の穴からレーザーシート光を照射して生成場両側面と下部を冷却した際の自然対流を観察した.初めに初期状態用循環装置(設定温度30℃)から熱媒体を十分な時間供給した後,冷却用循環装置(同-1.4℃)からの供給に切り替えて冷却し自然対流の様子を観察した.結果として,冷却中の温度低下に伴って流れの向きが反転する様子を観察し,その流速の時間変化を計測することに成功した.一方で,温度分布の計測は未実施であり,次年度の課題となった.
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今後の研究の推進方策 |
【2年目:CO2濃度の可視化,温度分布の計測の追加】提案する複眼的な同期計測手法の実現を目指す. 〇 CO2濃度:水に溶かすpH指示薬にはブロモフェノールブルー(BPB)を用いる.BPBはCO2の溶解が進むにつれて黄色から紫色へ変化する.この変化は家庭用ビデオカメラを高速度カメラに隣接配置して生成容器内を撮影する.CH生成時の冷却時間は30分程度を要するので,流れ場の時間変化は比較的緩やかだと予想される.したがって,高速度カメラでの撮影と家庭用ビデオカメラでの撮影を交互に行う手法を採用する.〇 温度分布:7点の温度計測点を持つ細径の多点シース型熱電対を容器内に複数挿入して温度分布を計測する.CHの生成は発熱を伴うので,急激な温度上昇を捉えることで,生成の開始位置と時刻,反応の強度を定量的に把握できる.熱電対はシート照明背部に挿入するので流れ場の計測には影響を及ぼさないと考えられるが,CO2濃度分布の計測では熱電対が映像に映り込むため該当部分を濃度計算から除外するなどの工夫が必要になると予想している. 【3年目:生成機構の解明と実験装置の評価】2年目に完成した実験装置で生成機構の解明に挑む.先行研究の課題だった「常温付近での生成促進」をテストケースとして,水とCPの最大流速とCO2の溶解速度,生成時間,生成量の関係を明らかにする.解明した生成促進機構をもとにして,常温付近での生成促進を実現する容器形状を試作し実験装置に組み込む.試作容器での計測結果から本研究で提案した実験装置の有効性を評価する.
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次年度使用額が生じた理由 |
温度計測の実施に至らなかったため,予算残が生じた.次年度にて温度計測を行う際に残予算を使用する予定である.
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