研究課題/領域番号 |
22K03968
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研究機関 | 北里大学 |
研究代表者 |
氏平 政伸 北里大学, 医療衛生学部, 教授 (70286392)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | 細胞の冷温保存 / 保存温度見直し / アルゴン加圧溶解 / 電気インピーダンス計測 / 細胞生存率 |
研究実績の概要 |
研究計画の遂行内容別に本年度の実績を報告する. 1)冷温保存温度見直しの有効性: 能動輸送停止有りの4℃と無しの6℃で細胞試料を保存した時の細胞生存率の時間的変化を調べ能動輸送停止の有無による違いを検討した.細胞を35 mm 培養皿の底面に1日間単層培養した培養皿試料を4℃と6℃で3~24 h保存し保存後の細胞生存を水溶性ホルマザン産生法(WST-8アッセイ)により評価した.その結果,4℃よりも6℃の方が保存後の細胞生存率が高くなり,保存温度として6℃の有効性が示唆された. 2)アルゴン(Ar)ガス加圧溶解による細胞保護効果: 6℃においてArガス加圧圧力 0.1~0.6 MPa(現有の圧力調整器の調整範囲)で培養皿試料を24 h保存することで適切な加圧圧力を検討した.その結果,Arガスの加圧溶解によって細胞保護効果が得られ,しかも,加圧圧力が高くなるにつれ効果も高くなることが明らかとなった.しかし,効果の程度としては最高圧力の0.6 MPaにおいてもあまり高くなかった. 3)電気インピーダンス計測による細胞生存率推定: 実験系を構築し,冷温保存中の細胞の細胞生存率の測定を試みた.電極付きチャンバー(Alpha MED Scientific Inc. MEDプローブ 64電極)に1日間単層培養したものを試料とした.まず,電気インピーダンス計測システムを構築し,4℃の保存庫内で培養液中に保存中の細胞試料の電気インピーダンスの周波数特性(10~100 kHz,印加電流 10μA)の時間依存性を調べ,そして100 kHzで除した電気インピーダンス比率を求めそれを評価指標とした.その結果,その評価指標から細胞生存率が推定可能であることが示唆され,その指標を用いることで試料の状態の違いによる誤差を低減出来た.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究計画遂行内容別の進捗状況と理由は以下の通りである. 1)冷温保存温度見直しの有効性: ほぼ計画通り進んだ.能動輸送停止有りの4℃よりも能動輸送停止無しの6℃の方が保存後の細胞生存率が高くなり,保存温度として6℃,即ち,保存温度見直しの有効性が示唆されたため. 2)Arガス加圧溶解による細胞保護効果: ほぼ計画通り進んだ.保護効果が有ることが明らかとなったため. 3)電気インピーダンス計測による細胞生存率推定: 計画以上に順調に進んだ.新たに導入された評価指標(電気インピーダンス比率)から細胞生存率が推定可能であることが示唆されたため.
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今後の研究の推進方策 |
研究計画の遂行内容別に今後の方策を述べる. 1)冷温保存温度見直しの有効性: 能動輸送停止無しの温度の中で最低温度である6℃が有効であることが示唆されたことから,次年度は2)のArガス加圧溶解でも同様に有効であるという結果が得られるのか調べる予定である. 2)Arガス加圧溶解による細胞保護効果: Arガスの加圧圧力が高くなるにつれ保存後の細胞生存率も高くなることが分かったので,加圧圧力を安全な範囲で高めることが有効と考えられる(最大1.0 MPa).このことは,次年度取り組む予定である. 3)電気インピーダンス計測による細胞生存率推定: 本年度に電気インピーダンス計測システムの基本特性測定のためにLCRメータ(日置電機 IM3536)を設備備品として購入したが,納入が大幅に遅れたことと細胞生存率の測定を優先させたためその測定までは至らなかった.また,測定の普遍性を確保する目的で,環境による影響,即ち,保存液の組成や保存温度の違いによる影響について調べる必要がある.これらのことは次年度以降に行う予定である.
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次年度使用額が生じた理由 |
額を出来る限り0円に近づけるように努力したが,現実的に業者に次年度払いを強いることは憚れるため,結果として未使用額が生じた.次年度の消耗品費に当てる予定である.
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