研究課題/領域番号 |
22K03997
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研究機関 | 宮崎大学 |
研究代表者 |
盆子原 康博 宮崎大学, 工学部, 准教授 (10294886)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 騒音制御 / 振動制御 / 固体伝搬音 / ポンプ配管系 / 水中音伝播 / フレキシブル継手 / コンバージョン建築 |
研究実績の概要 |
本研究では,コンバージョン建築で発生するポンプ配管系の固体伝搬音に起因した室内騒音問題の抜本的な解決策として,2個の配管用フレキシブル継手を用いる振動抑制法を提案している.この方法では,ポンプ近傍の配管に2個の継手を直列に設置してポンプと継手間(上流側)の配管系の振動モードを適切に変化させることで,ポンプから配管系に伝搬する振動を抑制できる.一方,ポンプ配管系では配管振動と水中音波とが連成しながら伝搬する.このため,配管振動のみを対象とした対策では固体伝搬音の抑制効果が十分 発揮されていない可能性がある. 令和4年度では,フレキシブル継手の2段設置法の更なる性能向上を図るための一検討として,フレキシブル継手の2段設置による水中音波の抑制効果について検証を行った.まず,検証実験を行うために,直立した直線状配管に水を充填し,下端のゴム膜を慣性加振器で振動させて水中音を発生させて,伝播させる実験装置(音響管)を製作した.この装置では,配管の上端と下端に設置した水中音マイクにより音圧信号を測定し,音響透過損失を求めることができる.また,実験装置に即した数理モデルを構築し,管内を伝搬する音波の音圧や粒子速度を数値計算により分析した. 実験結果と数値計算結果の比較を行った結果,長さの異なる2個の継手を設置すると単段設置した場合よりも音響透過損失が大域的な周波数範囲で大きくなることを確認した.この結果から,継手を適切に2段設置すれば配管振動だけでなく水中音波についても抑制可能であるといえる.ただし,数値計算結果に比べると実験結果の音響透過損失の変動量が小さく,まだ両者間の整合性がとれていない.この原因として,配管部や継手部における音速を精度よく同定できていないことが挙げられる.現在,この問題の解決に向けて検討を進めている.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題を遂行するにあたって,まずは実験装置を整備することが必要であった.そこで,申請時の計画に従って慣性加振機を導入し,これを水中音発生装置として利用した直線状音響管の製作を行った.準備した実験装置では,配管長が2メートル以上となり,実施当初は100ヘルツから500ヘルツまでの水中音を下端から上端まで安定的に伝播することが難しかった.それから繰り返し検討を行った結果,加振機や水中音マイクの設置方法を工夫することにより,目的としていた音響実験がある程度実施可能であることを確認することができた.また,実験装置の製作に合わせて,解析モデルの構築と数値計算プログラムの開発も行っており,水中音波の伝搬抑制メカニズムを解明するための環境が整いつつある状況である. これまでに得た実験結果および数値計算結果から,継手の種類や設置位置の違いが音波伝搬に及ぼす影響について検証を行った.現時点では,実験結果と数値計算結果との間に定量的な差異があるものの,継手の2段設置による水中音伝播の抑制効果を確認でき,研究目的の第一段階は達成できたものと考える.
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今後の研究の推進方策 |
令和4年度の課題として,水中音速の同定結果が精度不十分であるため,検証実,実験結果と数値計算結果の定量的な一致が得られなかった.とくに,水中内の気泡含有率が高いと配管部と継手部における音速の差が小さくなり,継手設置の効果が低減することになる.この点を踏まえて実験方法について再検討を行い,水中音波の伝搬抑制メカニズムの解明を達成したい. また,本研究のもう一つの課題である,配管振動と水中音波の連成振動に対する継手設置の抑制効果を検証するために,直線状音響管を改良する予定である.具体的には,ポンプの運転に伴って発生する配管振動と管内流体の圧力脈動を模擬するため,配管振動を発生させるための加振機を追加で設置して,配管振動と水中音波とを同時に発生させる.また,下流側配管に屈曲部や分岐を設けることで,配管振動と水中音波とが連成するように工夫する.本実験の妥当性を確保するために,ポンプ配管系で発生する配管振動や水中音波の実測データと比較しながら,実際の現象に近い連成振動の再現を試みる.また,配管振動と水中音波の連成振動を取り扱うための適切な数理モデルを構築する.
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次年度使用額が生じた理由 |
令和4年度では,直線状音響管の製作を行い,フレキシブル継手の2段設置による水中音波の抑制効果について検証を行った.その過程において,慣性式加振機を利用して水中音を発生させることがなかなか上手く出来ず,その機構の開発と実験装置の調整に時間を要した.フレキシブル継手の2段設置による水中音波の抑制効果については確認することができたものの,実験結果と数値計算結果の定量的な一致がとれておらず,現在も検討を行っている.このような状況であったため,当初計画していた,配管振動と水中音波の連成振動に対する継手設置の抑制効果を検証するための実験が行えなかった.次年度に繰り越した経費は,配管振動と水中音波の連成振動を発生させる実験装置を製作するための費用である.この実験装置の開発にあたっては,これまでに得た知見を踏まえて検討を進めており,令和5年度に試行する予定である.
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