研究課題/領域番号 |
22K04003
|
研究機関 | 関西大学 |
研究代表者 |
山本 健 関西大学, システム理工学部, 教授 (10370173)
|
研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
|
キーワード | 超音波キャビテーション / OHラジカル / 不活性化 |
研究実績の概要 |
本年度は,Escherichia coli及びSaccharomyces cerevisiaeの周波数20 kHzから3600 kHzの超音波による不活性化実験を行った.また,気泡振動を表現するRayleigh-Plesset方程式より,超音波周波数及び音圧を変化させながら,気泡の振動振幅を計算し,気泡周辺圧力を計算した. 超音波による微生物の不活性化は,単一種を対象としたものが主であり,不特定多数の菌が混在する一般雑菌を除いては,複数種の微生物を混合した試料の不活性化の報告は多くはない.本年度は,E. coli及びS. cerevisiaeを混合した試料へ超音波照射を行い,選択的な不活性化の可能性について検討した.周波数430 kHzにおける混合懸濁液中のE. coli及びS. cerevisiaeの不活性化実験を行った.E. coliは照射20 minで不活性化率がほぼ100 %であった.一方,S. cerevisiaeはほとんど不活性化されない結果となった.続いて,周波数1600 kHzにおける混合懸濁液中のE. coli及びS. cerevisiaeの不活性化実験を行った.E. coliは照射5 minで不活性化率が約40 %であった.それに対して,S. cerevisiaeは照射5 minで不活性化率が約100 %であった.このように,それぞれの菌に対して有効な周波数の超音波を適切な時間照射することにより,430 kHzではE. coliだけを選択的に不活性化することが可能であり,1600 kHzでは,S. cerevisiaeを優先的に不活性化させることができた.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
E. coli及びS. cerevisiaeを混合した試料へ超音波照射を行い選択的な不活性化の可能性を検討し,良好な結果を得たが,菌類・細菌の超音波による不活性化には濃度依存性があることが判明した.不活性化スピードだけではなく,濃度が変わると細胞への物理的・化学的作用の要因も変わることが分かった.そのため,今年度及び来年度以降の実験において,濃度という新たなパラメーターが増えた.また,気泡振動を表現するRayleigh-Plesset方程式より,初期気泡半径,超音波周波数及び音圧を変化させながら,気泡の振動振幅を計算したが,計測システム構築のため,ハイドロフォンによる音響スペクトルとの検討が多少遅れている.
|
今後の研究の推進方策 |
菌類・細菌の超音波による不活性化には当初の予想より大きな濃度依存性があることが判明したため,不活性化における濃度依存実験を進める.大きさ,弾性率及び構造の異なる球状微生物を対象として,超音波の周波数や音圧を変化させて,対象の形状的な変化・反応より支配的な物理的作用を決定する.また,対象の観察には,走査型電子顕微鏡,走査型プローブ顕微鏡及びハイスピードカメラを用い,超音波照射場の音響的測定(音圧,高調波及びスペクトル)から,キャビテーション気泡の状態を把握する.また,高感度分光器にて,超音波発光(ソノルミネッセンス)スペクトルを測定し,OHラジカルの生成や気泡内温度を予測する.不活性化対象として,菌類や細菌以外にもバラスト水排水基準を念頭に渦鞭毛藻類や珪藻類を中心に不活性化実験を進める.
|