研究課題/領域番号 |
22K04024
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研究機関 | 埼玉大学 |
研究代表者 |
程島 竜一 埼玉大学, 理工学研究科, 准教授 (10432006)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | スリンキー / 粗密波運動 / 折紙工学 / クレスリング折り / ワイヤ駆動 / 伸縮屈曲機構 |
研究実績の概要 |
人工物のスリンキーの波状運動の特性を把握するために,計算機シミュレーションを行い運動の解析を行った.スリンキーの運動を解析するための数理モデルを,剛体リンクと捩りばねによる回転関節により構築した.そして段差を自由移動する場合について,構築した数理モデルを使い多体動力学に基づいた運動方程式およびMATLABにより解析を行った.この解析では,スリンキーの波状運動に大きく関係していると予想したばね定数,段差高さ,初速度,リンク姿勢などをパラメータとして扱い,運動の変化や運動の安定性を調査した. 次に,開発する実験機の仕様を参考にして数理モデルのパラメータを再設定し,および捩りばねを能動的に制御できる関節と置換して,数理モデルを再構築してシミュレーションを行うことで,実験機の運動制御方法を模索した.低速度では関節を位置制御することにより良好な結果が得られたが,モデルの速度が遅く本来のスリンキーの運動とは大きく異なる結果となった.逆に大きい速度帯では関節へのトルク入力が有効であると予想し,モデルの速度を上げると同時に,トルク入力による制御を試みたが,実際のスリンキーの様なダイナミックな運動を再現するには至っていない.次年度以降で引き続き,検証が十分でないCPGやSLIPなどの手法を順次試していく予定である. さらに,次年度の実験機の開発準備として,駆動系以外のクレスリング折りに関連するロボット構造を3Dプリンタ等で試作し,構造設計を検討した.直接的に,クレスリング折りを剛体でモデリングしようとすると構造が複雑になるため,クレスリングパターンを修正した等価モデルを考案し,構造を簡略化した.クレスリング折りを忠実に模倣した再現モデルよりも簡略化した等価モデルの方が屈曲率や縮み率が大幅に向上したため,次年度の実験機の構造には等価モデルを採用することにした.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究計画で予定していたスリンキーの波状運動の特徴の把握や,ロボット工学的な手法による実験機の基本的な運動制御の検討,そして簡易モデルを使用したクレスリング構造の検証がおおむね行えていることから,本年度に実施した研究はおおむね申請書の計画通りに進展していると考えている. シミュレーションの結果,低速度では関節を位置制御する方法,高速度では関節をトルク制御する方法が有効である可能性を確認した.ただしスリンキーのダイナミックな運動を再現できていないため,ロボットの運動制御については引き続き検討が必要である.そして,剛体要素によるクレスリング構造の実現については,実際に3Dプリンタを用いた試作の結果,クレスリングパターンの等価モデルを導入することで良好な結果を得ることができた.この試作により,次年度行う予定である実験機開発のための,ロボットの構造材料,アクチュエータ,駆動系,電装系についての基礎的な知見も同時に獲得することもできた. 一部の計画に関しては,予定よりも進捗がやや遅れている.ただ計画の大部分は予定通りに進行しており,これらの遅れている研究項目に関しても,次年度に予定している実験機の開発と平行して行えるため,来年度も引き続き行う予定であり,全体の計画の進行度に関しては問題はないと考えている.
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今後の研究の推進方策 |
現在までの進捗状況はおおむね順調に進展していると判断しているので,今後も申請書の計画に従い研究を遂行していく予定である. これまでに行ったスリンキーロボットにおける波状運動の解析については,運動の基礎的な部分の解析を中心に行ってきたので,申請書で計画していない発展的な内容についても今後も継続して解析を行っていく方針である. 例えば,運動速度やばね定数などの物理的なパラメータと運動周期との関係,運動の安定性の指標の検討,関節や構造のコンプライアンスが運動に与える影響,などについても取り組む予定である. なお,ロボット運動のトルク入力による関節制御に関しての検討など,本来予定していた研究項目で予定よりやや進捗が遅れている項目に関しては,来年度も本来の計画である実験機の開発と平行して引き続き研究を行っていく. なお,動力学シミュレーションや試作実験の結果から,採用するモータの目標仕様,構造のばね性や,ロボット全体のサイズなど,スリンキーロボットの実験機に関する設計指針が得られたので,この成果を用いて次年度に計画している実験機の開発を行う方針である. そして,引き続き継続して行う動力学シミュレーションによる波状運動の解析と,ロボットの開発および動作実験を相補的に進めていくことで,スリンキーの運動生成メカニズムにおける力学構造を明らかにしていきたいと考えている.
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次年度使用額が生じた理由 |
動力学シミュレーション用計算機の購入費用を予算に計上していたが,計算機を別途用意することができたことで,計算機を購入する必要がなくなった.これが次年度使用額が生じた第一の理由である. 第二の理由として,ロボットの構造を検討する簡易モデルを作成するため,当初計画していた機械要素や電子部品を納期の関係で購入できず安価な製品で代用したことや,研究室で別途購入した3Dプリンタにより,簡易モデルに使用できる質の部品を自作できるようになったことで,購入や機械加工を依頼する必要のある部品が減ったことが挙げられる. これら二つが,次年度使用額が生じた主な理由であるが,この生じた助成金と翌年度分として請求した助成金については,国内外の部品費や機械加工費の高騰により,申請当初から計画していた実験機を製作する過程で,予算の全てを執行できる見込みである.
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