研究課題/領域番号 |
22K04051
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研究機関 | 東京電機大学 |
研究代表者 |
吉本 貫太郎 東京電機大学, 未来科学部, 教授 (50878387)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | パワーエレクトロニクス / ハイブリッドシステム / マルチレベルインバータ / 昇圧制御 / 電気自動車 |
研究実績の概要 |
本研究では、シリーズハイブリッド電気自動車(以下SHEV)における新たな小型・高効率な電力変換システムを実現するため、新しい直接型電力変換器D-EPCを用いた、電力配分制御による昇圧制御を確立する。提案するシステムでは、昇圧用のコンデンサの電位に新たにスイッチング素子を接続し、モータ・発電機の電力を配分することで、昇圧用コンデンサ電圧を制御し、駆動モータを昇圧した電圧を用いて駆動することができる。しかし、従来の昇圧チョッパのデューティ比による昇圧電圧の制御と異なり、新たにD-EPCの電力の配分制御による昇圧制御の理論構築が必要となる。 本研究では課題を大きく3つ挙げた。「D-EPCの電力配分制御を用いた昇圧制御モデルの理論的構築」「高速かつ安定した昇圧制御設計」「D-EPCの各電力損失の理論的導出」である。 研究初年度は、昇圧用コンデンサの電圧制御を行うため、制御対象である回路のモデル化を行い、そのモデルに基づいたフィードバック制御の設計方法を構築し、回路・制御の連成シミュレーションによって妥当性を検証した。また負荷モータによる駆動電力も外乱としてモデル化することにより外乱補償を行うフィードフォワード制御を検討し、二自由度制御としてその有効性をシミュレーションで確認した。 初年度は小出力の発電機と回路、コントローラを用いて、電圧制御の原理確認を行い、検討した昇圧制御モデルの妥当性とそのモデルに基づいた制御の有効性を確認した。また、高速かつ安定した昇圧制御として、負荷のモータ電力の急変に対する昇圧制御の基礎検討を行い、シミュレーションで有効性を確認することができた。 以上、初年度には目標のうちの2つに成果を得ることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
課題のうち「D-EPCの電力配分制御を用いた昇圧制御モデルの理論的構築」「高速かつ安定した昇圧制御設計」は研究計画を上回る進捗が得られている。 提案するハイブリッドシステムでの昇圧制御について、構想確認として回路・制御による連成シミュレーションを構築し、1つの平滑コンデンサを昇圧用コンデンサとして、その電圧を電力配分制御によって昇圧することを確認した。 「D-EPCの電力配分制御を用いた昇圧制御モデルの理論的構築」として、提案するハイブリッドシステムの電力配分制御と昇圧コンデンサを制御対象の理論モデルとして、変換損失を抵抗成分とおいたコンデンサ電圧制御用のモデルを提案することにより、応答解析と制御設計を容易にできたことが、その成果に貢献している。実験装置は小出力のモータと電源、電子負荷、回路・制御装置によるものを構築した。制御の原理確認が目的であるため、小出力のものでもモデル化の妥当性、制御の有効性の確認には十分であるとの判断に基づく。この実験装置による昇圧制御実験を行い、昇圧ステップ応答から昇圧制御モデルの妥当性、制御の有効性を確認することができた。 「高速かつ安定した昇圧制御設計」に関しては、、駆動モータの電力の変化による昇圧コンデンサの電圧変化への影響をシミュレーションで課題として確認した。この駆動モータの電力を、発電機側の電力配分制御への外乱としてモデル化することによって、その外乱補償を制御として提案することができた。提案する外乱補償を含めた昇圧制御の有効性はシミュレーションによって確認できている。 これらの成果は、電気学会産業応用部門大会、研究会ならびに全国大会で発表している。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は、「高速かつ安定した昇圧制御設計」「D-EPCの各電力損失の理論的導出」への取り組み、本研究をより加速させる。 「高速かつ安定した昇圧制御設計」では、これまでに駆動モータ電力による外乱を考慮した昇圧制御の有効性をシミュレーションで確認している。今後、発電機・駆動モータのハイブリッドシステムとしての実験により、駆動モータの電力変化時にも高速かつ安定した昇圧制御が実現できることを確認する。この目標の達成のために、駆動モータ側のベンチ構築と、発電機と駆動モータの統合制御系の実現、各部の電流・電圧の測定とともに発電機・駆動モータのトルク測定ができるような実験装置を構築する。 「D-EPCの各電力損失の理論的導出」としては、各部の電力変換損失を定常損失とスイッチング損失のモデル化を行い、理論的な電力変換損失を求められるようにする。従来のインバータやマルチレベルインバータとはそれぞれのデューティの決定方法がD-EPCにおける電力配分制御という新しい概念に基づくため、新たな電力変換損失の導出が必要になる。検討した電力変換損失の計算方法の妥当性は、まずはシミュレーションで妥当性の検証を行う。そのうえで、実験装置により検討した電力変換損失の妥当性を確認する。この成果を得られたうえで、電力変換損失を低減する電力配分制御方法の検討を行う。 研究を推進する上での課題として、検討した電力変換損失の計算方法の妥当性確認時の測定精度・誤差の影響が懸念される。構築する実験装置は小出力のモータを用いるため、電力・変換損失共に小さな値となるため、測定精度・誤差が導出した計算方法の妥当性確認時の課題となる可能性が考えられる。これら課題も念頭に、次年度の実験計画、導入実験環境を検討していく。
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次年度使用額が生じた理由 |
詳細見積時での差異として、予算額よりも1400円分安く手配することができた。残額は次年度の設備購入・消耗品購入に充てる。
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