研究課題/領域番号 |
22K04067
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研究機関 | 愛媛大学 |
研究代表者 |
門脇 一則 愛媛大学, 理工学研究科(工学系), 教授 (60291506)
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研究分担者 |
野澤 彰 愛媛大学, プロテオサイエンスセンター, 准教授 (30432800)
弓達 新治 愛媛大学, 理工学研究科(工学系), 助教 (40380258)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | 水柱電極 / 誘電体バリア放電 / 高導電性水溶液 / 殺菌 / 水耕栽培 |
研究実績の概要 |
水耕栽培における高導電性の養液中に残存する真菌や細菌を,オゾンを発生させない放電技術で不活化させる。本手法が栽培溶液中の菌類に対する殺菌効果を有する一方で,生産物である野菜類がオゾンによる成長阻害を引き起こされないことを実験的に明らかにする。肥料を含む栽培養液は高い導電性を有するがゆえに,養液中で放電プラズマを進展させることは困難である。そこで本研究では,放水用ノズルから細線状に吐出された養液を水柱電極として用い,これとガラスバリアとのギャップ間で放電を引き起こすという手法を提案する。 本手法が独創的であることの理由のもう一つは,死滅の機序について,電流由来なのかあるいはラジカル由来なのかについて議論することができる点にある。システムを回路的に見れば,負荷は水抵抗,空気ギャップとガラスのコンデンサである。抵抗値,キャパシタンス,角周波数をパラメータとすれば,これらの調整により水で消費される熱エネルギーと,プラズマ中の荷電粒子群に投入されるエネルギーの比を変更できる。 1年目,水柱電極を用いた放電現象の基礎特性を把握することを目的として,青色染料(インジゴカルミン水溶液)を模擬溶液として,染料脱色のエネルギー効率に対する導電率の影響を調べた。一般的な放電処理では導電率の上昇とともにエネルギー効率は低下する。これに対し本手法を用いた場合には導電率とエネルギー効率との関係はV字特性を示し,導電率がある値以上になると,導電率の上昇とともにエネルギー効率も上昇する傾向が認められた。このようなV字特性を示す理由を,等価回路モデルを用いて説明した。次に,大腸菌を含む塩化ナトリウム水溶液を用いて,殺菌処理能力を調査した。その結果,塩化ナトリウム濃度の上昇に伴い大腸菌殺菌に要する時間が短縮されるという興味深い実験事実を得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
電解質(食塩もしくは硫酸マグネシウム)を含んだ青色染料(インジゴカルミン水溶液)を試料とし,水柱電極を用いた誘電体バリア放電による染料の脱色を試みたところ,導電率が数十mS/cmの液体であっても,電解質を含まない低導電性液体と同等の分解率を得ることができた。当初,単位エネルギーで分解することのできるインジゴカルミンの量(分解効率 g/kWh)は,導電率の上昇とともに低下すると思っていた。しかしながら実際はそうではなく,分解効率はある導電率で最小値を示すものの,更なる導電率の上昇とともに分解効率も上昇するというV字特性を示すことがわかった。等価回路モデルを用いることにより,V字特性を示す理由を明らかにした。 さらに真菌類よりも放電への耐性が比較的低い大腸菌(JM109)を食塩水中に混入させ,これを模擬水耕栽培溶液として放電処理をおこない,殺菌率に対する溶液の導電率の影響を実験的に調査した。その結果,大腸菌の殺菌率は,水溶液の導電率の上昇とともに上昇するという結果を得た。導電率の上昇とともに水上放電の広がりは縮小するのだから,導電率上昇とともに殺菌率は低下すると考えるのが一般的である。水柱電極を用いることによって,なぜ高導電性液体における殺菌率が高くなるのかについては現時点では明らかになっていない。この理由を明らかにすることが,大腸菌の殺菌メカニズムの解明につながると考えている。 以上の成果にもとづき,現在までの進捗状況はおおむね順調に進展していると判断する。
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今後の研究の推進方策 |
当初の計画では,クモノスカビを対象としてその殺菌機構を調べる予定にしていた。しかしクモノスカビは,放電処理やオゾン処理に対する耐性が極めて強いことが1年目の研究で明らかとなった。一方で,大腸菌を用いた処理実験において興味深い結果が得られていることから,2年目に計画していた遺伝子オントロジー解析の対象を,クモノスカビから大腸菌に変更する。クモノスカビについては過酸化水素と放電の併用による促進酸化法を用いて,引き続き殺菌の可能性を探る。
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