研究課題/領域番号 |
22K04100
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研究機関 | 東京農工大学 |
研究代表者 |
有馬 卓司 東京農工大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (20361743)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 低周波数帯に対する電磁界解析技術 / メタマテリアルに対する電磁界解析技術 / 等価回路モデルの作製 / ラゾーバの開発 / FDTD法 |
研究実績の概要 |
本研究課題の目的は:①透磁率と誘電率を同時に制御できる波長無限大構造の解明,さらにこの構造中での電波の振る舞いを明らかにする.②波長無限大構造の作製・測定手法の開発,③波長無限大構造による電波放射制御方法の解明,を行い電波の緻密な放射制御を実現する事である.3年間の研究期間の1年目である今年は,上記①を実施し下記業績を得た. まず,上記①を遂行するために本研究課題ではシミュレーションによる論理的な手法を多用する事としていた.そこで今年度は,研究代表者(有馬卓司)が所有する,シミュレーション技術を多用した.特に研究代表者は時間領域の電磁界解析技術特にFDTD法について,卓越した解析技術を有する.今年度は,上記①を達成するべく,FDTD法をメタマテリアルに適応させることに注力しいくつかの成果を上げている.まず,FDTD法については,低周波数帯の解析を可能にしている.特にMHzオーダーの解析を行った.本研究の目的は低周波数などの波長が長い現象に対して,ごく小さなアンテナを作成する事であるので開発した手法は有用であると考える.さらに,①で開発した手法はいわゆる電磁界解法であり計算時間が比較的長くなる.そこで,簡易かつ高速に解析できる手法として等価回路モデルの開発も成功している.等価回路モデルを用いて,周波数選択版やラゾーバと呼ばれる,ある周波数では電波を透過し,異なる周波数では,電波を吸収する特性を有する構造の開発にも成功した.ラゾーバ構造は,透過型の周波数選択版と,吸収特性を示す吸収板を適切に組み合わせる事で開発を行った.その結果,ラゾーバにおいてはある条件で入射角度に対して共振周波数がほぼ変化しない構造の開発を行った.これら成果は,電子情報通信学会の研究会や総合大会で報告している.今後これら成果を国際会議や論文を通して発表する予定である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題の申請段階における1年目の目標として,「広帯域に波長無限大を示す構造を開発する.この開発のためにシミュレーション技術の開発」を挙あげていた.その目標を順調に開発できたので,上記の「おおむね順調に進展している」の評価となっている.詳細な説明を下記に示す. まず,シミュレーション技術の開発について述べる.研究代表者はFDTD法というシミュレーション手法に卓越した技術を有していた.本研究では,広帯域での波長無限大を実現する構造を開発する事である.そのため,解析にはごく低周波数も含まれる.FDTD法は時間領域の解法であるために,周期の短い高周波数帯は比較的簡単に解析できるが,低周波数の問題は周期が長いために非常に長い計算時間が必要となる.この技術の開発に成功した.特にFDTD法のアルゴリズムを低周波数に特化させることに成功した.また,計算時間を削減するためにFDTD法の解析空間を複数の領域に分けることに成功した.これら結果は学会等で発表している. 次に,波長無限大構造の開発について述べる.今年度は波長無限大構造を開発するために,いろいろな周波数での共振現象に注目しその周波数をコントロールできる技術を開発した.まず,これまで存在した周波数選択版ではある周波数だけ電波を遮断もしくは等価させている.本研究ではさらにある周波数では電波を吸収するラゾーバという構造に本研究の理論を適応させることに成功した.特に,吸収現象は電波を構造内に閉じ込め,閉じ込めたことにより複数回の反射を繰り返すうちに基板の損失により電波を吸収する.よって,この閉じ込めは共振現象により発生するが,この周波数をコントロールできる技術を開発した.また,透過は非共振であり,この非共振が起きる周波数もコントロールすることに成功している.よって,上記評価となっている.
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今後の研究の推進方策 |
2年目,3年目の計画を下記に示す.まず,申請時の課題で残っているのは,①開発した波長無限大構造の作製技術の開発を行い作製した構造を測定できる装置を開発.②波長無限大構造を用いた電波の緻密な放射制御方法の開発,である.それぞれの課題の今後の推進方策について下記に述べる. ①については,実験により進める必要がある.研究代表者が所属する機関には実験に必要な環境(6面電波暗室,ネットワークアナライザ,スペクトラムアナライザ,信号発生器,アンテナ放射効率測定装置(ソフトウエア含む))が存在している.これらを駆使して研究を推進する.また研究代表者は,測定技術,電磁界解析技術について多くの実績があり迅速に研究が推進できる環境にある.また,波長無限大構造の作製には,基盤掘削機による作製を基本的には行う.また基板掘削機では精度が限られるため,印刷技術(エッチング)を用いた構造の作製(外注予定)を行う. ②については,3年目の実施を予定している.この課題の遂行には,2022年度に開発した電磁界シミュレーション技術を活用する.また,今年度等価回路モデルも開発しているのでこの技術も活用できると考える.研究の進め方については,国内外の研究者と連携を取りながら進めていく.研究代表者はメタマテリアルを中心とする本分野で最大の学術団体である電子情報通信学会アンテナ伝播研究会において専門委員を務めている.この人脈を利用して国内外の多くの研究者と本研究の可能性についてすでに議論を始めている.また,海外では本分野について多くに実績を有する研究者と多くの交流実績がある.また,2023年度はこの分野で世界最大の学術団体である米国IEEE学会で発表し海外の研究者と意見交換を実施する予定である. 最後に成果についても国内外で論文・国際会議を通して積極的にPRする予定である.
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究では,シミュレーションを多用する予定である.2022年度は大型計算機を使用したシミュレーションを予定していたが,購入した計算機用サーバの性能が良く,大型計算機の使用に至らなかったため,次年度使用額が生じた.2023年度は,申請時点よりも大きな計算を実施するために,大型計算機使用代は必要となる.次年度使用額に残った分は,航空券大高騰のため,航空券代として使用する予定である.
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