研究課題/領域番号 |
22K04107
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研究機関 | 千葉工業大学 |
研究代表者 |
中静 真 千葉工業大学, 工学部, 教授 (10251787)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 画像処理 / 深層学習 / 組み込みシステム / 低精度演算 / マセマティカルモフォロジ |
研究実績の概要 |
本研究の目的は,画像処理を,IoT機器などの極小規模のエッジデバイス上で実現するために,低精度の計算で実現できる深層ネットワークの構成を提案することである.本年度は,マセマティカルモフォロジを用いた拡散過程の深層展開に基づく雑音除去法,ならびに画像欠損の復元法を提案した.2次元関数のラプラシアンに基づく拡散過程は,熱の拡散の物理モデルとして知られており,画像処理においては反復的に画像の平滑化を実現する.本研究では,拡散過程を,深層展開により1回の反復演算を一つのステージとする深層ネットワークの構成へ展開し,それぞれのステージにおいてラプラシアンをマセマティカルモフォロジによる離散近似で実現した.この離散化においては,乗算を使うことなくラプラシアンの計算が実現されるため,ラプラシアンの計算過程においては,語長が増えることなく8ビット符号無し整数演算の範囲で処理が実現できる.この特性から,SIMD(Single Instruction Multiple Dataset)に基づく並列高速計算を用いることができ,さらに,高速なメモリアクセスから高速処理が実現できることを示した.提案した深層ネットワークをARM社のマイクロプロセッサCortex A7上に実装し,他の畳み込み型ニューラルネットワークと実行時間等で比較を行った.比較から,提案法は,雑音除去性能としてピーク信号雑音比で0.6dB程度低いものの,計算速度で10倍,さらにメモリ使用量で1/64以下,パラメータ数が1/20以下で雑音除去を実行することができた.また,画像補間の問題へ適用した場合においても,畳み込み型ニューラルネットワークの1/8位以下のパラメータ数で同等の精度で画像を補間できることを確認した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の予定とおりマセマティカルモフォロジを用いた深層展開により,低精度演算を可能にするネットワークを導出,そのネットワークによる画像処理結果を評価することができた. また,SIMD演算を利用して,実際にマイコン上で動作させ,処理速度を測定,従来法と比較することができた.さらに,実験の過程で,提案法がパラメータの量子化に対して強い耐性を持つことがわかった.提案法によるネットワークのパラメータの95%を,5ビット程度まで量子化しても大きな性能の劣化は起こらない.当初,想定した計算速度のメリットだけでなく,使用するメモリ容量も少ないことも特長として持つことがわかった.この量子化により発生する誤差の伝搬の解析も行い,提案法の構造そのものが量子化誤差の低減につながることがわかった. さらに,雑音除去だけでなく,画像の補間,欠損画素の推定へ応用することができることを実験例から示すことができた.
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今後の研究の推進方策 |
本年度の研究成果をもとに今後,三つの方向で研究を展開する予定である. 一つは本年度に提案したネットワークの高度化,高性能化が挙げられる.提案法は既存のニューラルネットワークと異なり,計算過程の意味を解釈することが可能であり,雑音推定を行っている部分を抽出することが可能である.そのため,この部分のパラメータのみを再設定することで,1回の学習で幅広いノイズ分散に対応するネットワークを構築する.また,ネットワーク構造に,ノードを不可することでできるだけ計算量を増やすことなく,効果的に性能の向上を図る. 2番目に,今年度の研究で提案したネットワークの基本構造を,ニューラルネットワークのニューロンとして用い,汎用的なネットワークへと拡張することが挙げられる.汎用ニューラルネットワークで取り上げられる問題である文字認識,一般画像認識へ提案法を応用し,エッジデバイス向けに低精度計算が実現できることを示す. また,今年度の研究成果より,提案法が高い量子化耐性を持つことから,パラメータを1ビットまで圧縮し,さらなる省メモリと高速演算を実現することも課題として挙げられる.
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次年度使用額が生じた理由 |
既存の計算機環境で,提案法を検証することができたので,新規に購入する物品が減った.また,今年度の成果を次年度には論文等で発表する予定であり,そのための旅費および学会参加費として利用することを計画している.
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